愛しい娘

公開日: 子供 | 家族 |

女の子の寝顔(フリー写真)

自分がまだ幼稚園児の頃だと思う。

夜中に不意に目が覚めると、父が自分の顔を覗き込んでいて、いきなり泣き出した。

大人が泣くのを見るのはその時が初めてだったし、しかも

『父はとにかく強くてかっこいい!』

と信じていたので凄く吃驚したのを憶えている。

その後、何度か同じようなことがあった。

父に訊いても

「夢でも見たんだろう」

と言うので、何しろ幼児の頃の記憶だし、自分もそう思うようになっていた。

しかし二十年以上の歳月を経て、父はついに白状した。

当時、とにかく忙しい職場に勤めていた父は、朝は私が起き出す前に出勤。夜は私が就寝後に帰宅の日々。

寝顔をそっと覗き見るのが日課で、このままでは娘に顔を忘れられてしまうと不安に思っていたらしい。

そんなある日、いつものように寝顔を眺めていると、私が目を覚ましてしまった。

やばい、よく寝ていたのに、ぐずってしまうかも知れない…と父が焦っていると、私が寝ぼけ眼のまま

「おとーしゃんだ」

と言って、ニッコリと笑ったらしい。

ろくに顔を合わせることも出来ず、たまの休日も疲れ果てて寝ていることが多い。

しかもこんな夜中に起こされて、それでもこの子は自分の顔を見て喜んでくれるのか、こんな風に笑ってくれるのか…と思ったら、愛しさが込み上げて思わず泣いてしまったらしい。

それがどうにも恥ずかしくて照れくさくて、どうしても本当のことが言えなかった。

「嘘吐いててスマン!」

と告白された結婚式前夜。

内心は萌えつつも、

「明日目が腫れたらど-してくれる!!」

と私が切れたので笑い話になったが、父が涙を流していたあの記憶は、私にとって良い思い出になった。

関連記事

父と娘(フリー写真)

娘からの愛情弁当

俺は高校まで都立でずっと給食だったし、大学のお昼も学食やコンビニで済ませていた。 母親の手作り弁当の記憶など、運動会か遠足くらいだ。記憶が遠過ぎて覚えていない。 就職して…

バイク(フリー写真)

最高の子供達

昔話になるが、15歳の時に親父が畑や山に通うのに使うスーパーカブを無免で持ち出し、親父に顔の形が変わるほどぶん殴られて以来のバイク好きだった。 カブから始まり、モンキー、FX、C…

母と娘(フリー写真)

強いお母さん

母さんが亡くなってから6年経つのに、まだまだ寂しがりやの私です。 昔の携帯を見つけたの。受信箱に母さんからのメール。 「まだ帰れない?」 「鍵忘れてるよ^^」 …

吹雪(フリー写真)

ばあちゃんの手紙

俺の母方のばあちゃんは、いつもニコニコしていて、かわいかった。 生んだ子供は四姉妹。 娘が全員嫁いだ後、長いことじいちゃんと二人暮らしだった。 そして、じいちゃんは2…

結婚式

父娘の絆

土曜日の太陽が、一人娘の結婚式を温かく照らしていた。 私が彼女たち母娘と出会ったのは、私が25歳の時でした。妻は33歳、娘は13歳というスタートでした。 事実、彼女は私の…

マラソン

継承されるタスキ

小さな頃、親父と一緒に街中をよく走ったものだ。田舎の我が町は交通量も少なく、自然豊かで、晴れた日の空気は格別だった。 親父は若い頃、箱根駅伝に出場した経験がある。走るのが好きで…

男の子

父の小さな優しさ

子供の頃、母が入院していた時期があって、そのせいで遠足の準備がうまくできなかったんだ。一人じゃお菓子も買いに行けなくて、家にあった食べかけのお茶菓子をリュックに詰め込んだのを覚えてる…

バイク

想い出の贈り物

昔のこと、15歳のときに親のスーパーカブを持ち出した私は、その後の一件を境に、バイクの虜となった。 次々と乗り換えていったバイクたち。そして、幸せな家族との日常。 しかし…

手(フリー写真)

無償の愛

おじいちゃんは老いから手足が不自由で、トイレも一人で行くのは厳しい。 だから、いつもはおばあちゃんが下の世話をしていた。 おばあちゃん以外が下の世話をするのを嫌がったからだ…

遠足用具(フリー素材)

遠足のおやつ

小学生の頃、母親が入院していた時期があった。 それが俺の遠足の時期と重なってしまい、俺は一人ではおやつも買いに行けず、戸棚に閉まってあった食べかけのお茶菓子などをリュックに詰め込…