無償の愛

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 | 祖父母

手(フリー写真)

おじいちゃんは老いから手足が不自由で、トイレも一人で行くのは厳しい。

だから、いつもはおばあちゃんが下の世話をしていた。

おばあちゃん以外が下の世話をするのを嫌がったからだ。

ある日、家に私とおじいちゃんの二人きりになった。

おばあちゃんが倒れてしまい、母と兄は病院、父は会社から病院へ直行したからだ。

おじいちゃんと留守番をしていると、申し訳なさそうに

「ももちゃん、悪いんだがトイレに…」

と言った。

私は本当に馬鹿だなって思った。

一人じゃ行けないのを知っていた癖に、気が付いてあげられないなんて。

孫、それも女の私には言い辛かっただろうなって。

トイレに行くとパンパースが小と大で汚れていた。

沢山、我慢させてしまった。

私はおじいちゃんの気を逸らそうと、学校であった笑い話を精一杯明るく話した。

お風呂場で体を洗い、パンパースを付けてホッとした。

同時におばあちゃんは毎日これをしているんだと思うと、何とも言えない気持ちになった。

お世話を終えると、おじいちゃんが

「悪かったね、ありがとう」

と五千円をくれようとした。

おじいちゃんは本当に馬鹿だなって思った。

私が赤ちゃんの時、両親は共働きでした。

おしめを変えて育ててくれたのは貴方じゃないですか。

幼稚園だって塾の送り迎えだってしてくれたのは貴方じゃないですか。

あれは無償の愛でしょ?

私はおじいちゃんが大好きだよ?

だからお金なんかいらないんだよって言った。

二人してちょっと泣いた。

その日からは介護の人を頼んだり、おじいちゃんが家族にも頼ってくれたりで、おばあちゃんの負担も減った。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

赤ちゃんの手を握る母(フリー写真)

お母さんありがとう

昨日、午前4時22分に母が亡くなった。 風邪ひとつ引かない元気な母だった。 僕が幼稚園に入る頃には、もう父は居なかった。 借金を作って逃げたらしい。 母は早朝4…

浜辺を走る親子(フリー写真)

両親は大切に

人前では殆ど泣いたことのない俺が、生涯で一番泣いたのはお袋が死んだ時だった。 お袋は元々ちょっと頭が弱くて、よく家族を困らせていた。 思春期の俺は、普通とは違う母親がむかつ…

プログラミング(フリー素材)

パパの一時間はいくら

プログラマーの父は、今日も仕事で疲れ切って遅い時間に帰って来た。 すると、彼の5歳になる娘がドアのところで待っていたのである。 彼は驚いて言った。 「まだ起きていた…

マラソン

継承されるタスキ

小さな頃、親父と一緒に街中をよく走ったものだ。田舎の我が町は交通量も少なく、自然豊かで、晴れた日の空気は格別だった。 親父は若い頃、箱根駅伝に出場した経験がある。走るのが好きで…

野球(フリー写真)

甲子園の約束

十年前、彼女が死んだ。 当時、俺達は高校3年生。同じ高校に通い、同じ部活だった。 野球部だった。 俺と彼女は近所に住む幼馴染で、俺は小さな頃から、野球が好きな両親に野…

結婚式(フリー写真)

一生忘れない結婚式

本人から聞いたのか共通の友人から聞いたのかあやふやだけど、その子は物心付く前にお母さんが亡くなって、父親に育てられたという話は耳にした事があった。 結婚式後に聞いた話だけど、何か…

夫婦の後ろ姿

娘になった君へ

俺が結婚したのは、20歳のときだった。 相手は1歳年上の妻。学生結婚だった。 二人とも貧乏で、先の見えない毎日だったけれど、それでも毎日が幸せだった。 ※ 結…

カップルの影

残された日記

二年間付き合っていた彼に、突然別れを告げられました。 それは、彼の口から出たとは思えないほど酷い言葉で、心が引き裂かれるような別れでした。 どれだけ「まだ好きだ」と伝えて…

教室

先生の目に浮かぶ涙

私がその先生に出会ったのは、中学一年生の時。 明るくて元気いっぱいの先生だったけれど、怒るときはすごい勢いで怒る。 そんなパワフルな先生が、私はとても好きだった。 …

天国(フリー素材)

天国のおかあちゃんへ

もう伝わらないのは解っているけど、生きている内に伝えられなかった事を今、伝えるね。 まずは長い闘病生活、お疲れ様。最後まで絶対に諦めなかったおかあちゃんの姿、格好良かったよ。 …