飛行機雲のように

公開日: ちょっと切ない話 | 子供 | 家族

飛行機雲(フリー写真)

「空に憧れて、空を駆けてゆく

あの子の命は、飛行機雲」

その歌の通りでした。

小さい頃から、

「僕、ぜーったいパイロットになるからね!」

と言っていたあの子。

先月、あの子の飛行機雲のように短い命が消えました。

小さい頃から「パパみたいになるんだー!」と言っていた息子。

『ママみたいになる!』とは言ってくれないのね…(笑)。

最愛の息子を、癌で亡くしました。

私は、どこに向かって歩けばいいの?

そんな不安も絶望も、あの子が吹き飛ばしてくれました。

私は情けない母でしたね。

麻痺してしまってよく動かない手で、私があげた日記帳に

「ママ、さいきん笑ってない。ぼくのせいかな。

ぼくが心配かけるからかな。早くたいいんして、ママに笑ってもらう!」

と綴っていました。

それを読んだ瞬間、息子の前で泣いてしまいました。

「ごめんね、ごめんね」

と頭を押さえて泣く私の髪の毛を、

「ママ、泣かないで?」

と言いながら撫でてくれました。

本当、パパに似て優しい子です。

自分より、他人の心配をするなんて。

癌治療は、とてつもなく不安だったと思います。

それなのに笑顔しか見せなかった。

もっと甘えて良いのに…。

最期は、仕事でなかなか会えない夫も来てくれました。

私は、掠れた声で何か伝えようとする息子の声を聞き取ろうと必死でした。

すると夫は、

「作って来たよ」

と言って息子に何かを差し出しました。

紙飛行機でした。

息子は嬉しそうにそれを受け取り、

「やっとお空、飛べるね」

と言って、静かに息を引き取りました。

私は、涙が溢れて止まりませんでした。

段々と冷えて行く息子の手を、ずっと握っていたい。そう思いました。

息子の部屋を掃除していて見つけた、あのノート。

続きが書かれているみたいでした。

読んでみると、

『パパみたいにお空をとびたいな。

パイロットになれたら、ママとも一緒におしごとする!』

私は、息子の癌が見つかる前、キャビンアテンダントとして働いていました。

息子はそれを知っていたのです。

それを読んで、私は仕事に復帰しました。

あの子は、空を飛ぶ飛行機が見えにくい夜も、私の足元を照らしてくれる。

ねえ、空?

聞こえてますか?

貴方は世界一のパイロットとして、その小さな命が燃え尽きるまで生き抜いた。

ママも、空みたいな人になれるように頑張ります。

関連記事

手を繋ぐ夫婦(フリー写真)

最高の両親

ある女性が学生の頃に暴行されました。 男性不信になった彼女はずっと男性を避けていましたが、会社勤めをしているうちに、そんな彼女に熱烈にアタックしてくる人がいました。 その…

世界一やさしい娘

昨夜、俺は嫁とケンカをした。 きっかけは本当に些細なことだった。 小学2年生になる娘の○美が、突然バイオリンを習いたいと言い出したのだ。 嫁は嬉しそうに言った。 …

柴犬

きなこの本当の気持ち

今から10年以上前、友達が一匹の柴犬を飼い始めました。 きれいな淡い毛色をしていたことから、その犬は『きなこ』と名付けられました。 友達は毎日夕方になると、『きなこ』を連…

花屋さん(フリー写真)

助け合い

会社で、私の隣の席の男性が突然死してしまった。 金曜日にお酒を飲み、電車で気分が悪くなって、途中下車して駅のベンチで座ったまま亡くなってしまった。享年55歳。 でも、みんな…

机

文化祭の日には

ある日、教室へ行くと座席表が更新されていました。私の席は廊下側の前から二番目、彼は窓側の一番後ろの席。離れてしまいましたが、同じクラスになれて本当に良かったと思いました。 クラ…

結婚式

父娘の絆

土曜日の太陽が、一人娘の結婚式を温かく照らしていた。 私が彼女たち母娘と出会ったのは、私が25歳の時でした。妻は33歳、娘は13歳というスタートでした。 事実、彼女は私の…

鉛筆と参考書(フリー写真)

厳しい母

私の母はとても厳しい。 身の回りの事は全て自分でやらされていた。 勉強も部活も一番じゃないと気が済まない。 定期テストで二番を取ると、 「二番は敗者の一番だ」…

カップル

ふたりの幸せのかたち

もう五年も前のことになる。当時、俺は無職だった。 そんな自分に、ひとりの彼女ができた。きっかけは、彼女の悩みをたまたま聞いてあげたことだった。 正直なところ、最初は他人事…

味噌焼きおにぎり(フリー写真)

祖母の味噌焼きおにぎり

僕には祖母がいる。 祖父は僕が生まれる前に亡くなった。 だから、祖母は大変だったらしい。 祖父は保険に入っておらず、残されたのは煙草畑と田んぼと仔牛くらいだった。 …

子供の手(フリー写真)

嫁の手

うちの3才の娘は難聴。殆ど聞こえない。 その事実を知らされた時は嫁と泣いた。何度も泣いた。 難聴と知らされた日から、娘が今までとは違う生き物に見えた。 嫁は自分を責め…