母が見せた涙
うちは親父が仕事の続かない人で、いつも貧乏だった。
母さんは俺と兄貴のために、いつも働いていた。ヤクルトの配達や、近所の工場とか…。
土日もゆっくり休んでいたという記憶は無いな…。
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俺は中学、高校の頃、そんな自分の家庭が嫌で仕方が無かった。
夜は遅くまで好き勝手に遊んで、高校の頃は学校をさぼって朝起きないことも多かった。
高校を卒業しても、仕事もせずに遊んでいたものだから、当然金は無い。
そこでやっちゃった。盗み。詳しくは言えないけど、まあ、空き巣だね。
ただ、小心者の俺はその日に自首したんだ。良心が咎めたとかではなく、ただビビっただけ。
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警察に俺を迎えに来た母さんは、本当に悲しい顔をしていた。でも、泣いてはいなかった。
一緒に家庭裁判所へ行った時も、割と落ち着いていた。
裁判所の帰りの電車で俺、謝ったんだ。ボソッと「ごめん」って。そしたら、
「お母さんこそ、お前に申し訳ないよ。ろくに小遣いもやれないで…。
本当にお前が可哀想で…すまなくって…」
俺、電車の中でぼろぼろ泣いた。声を出して泣いていたと思う。
何やってんだ俺。何やってんだ俺。そう思って、情けなくて申し訳なくて…。
ここでも母さんは泣いていなかったな。ただじっと俯いていただけだった。
※
俺はその後、必死になって勉強した。昼はスーパーでバイトして、夕方からは受験勉強。
そして翌春に何とか大学に合格。バイトを続けながら大学生活が始まった。
でも、母さんは何となく俺のことがまだ心配なようだった。
母さんも相変わらず働き詰めだから、そんな生活の俺とはあまり会話が無かったし、家が貧乏なのに変わりは無かったしね。
だから俺、入学後も一生懸命勉強した。自分のためと言うより、母さんを安心させてやりたかった。
※
それで大学1年目の終わりに、
「母さん。ちょっと見せたいものがあるんだ」
そう言って紙を一枚渡した。
大学の成績通知書。履修した科目が全部『優』だったから。
最初は通知書の見方がよく分からなかったみたいだけど、説明したら成績が良いのは解ったみたい。
母「へえ、すごいね…。母さん、科目の名前を見てもよく解らないけど、凄いんでしょ? これ」
俺「すごいかどうかは分かんないけど…」
母「…凄いね。…偉いね」
俺「だからさ…こんな物だけで偉そうに言うのもあれだけど…。
俺、もう大丈夫だから。母さんを裏切ったりしないから」
そしたら、母さん泣き出しちゃった。もう号泣。
そこで気付いたんだけど、俺、母さんが泣くのを見るのは初めてだった。
きっと、何があっても子供には涙を見せないように頑張っていたのだと思う。
そう思ったら俺も泣き出しちゃった。母さんより泣いていたかも(笑)。
はあ…親孝行しなきゃな…。