父の小さな優しさ

公開日: 家族 | 心温まる話 |

男の子

子供の頃、母が入院していた時期があって、そのせいで遠足の準備がうまくできなかったんだ。一人じゃお菓子も買いに行けなくて、家にあった食べかけのお茶菓子をリュックに詰め込んだのを覚えてる。

その夜、いつも通り遅くに帰ってきた父は、ふと「明日遠足か」とつぶやいて、僕のリュックを覗いたんだ。父は何も言わず、ただ黙って見ていた。僕はそのまま眠りについたけど、翌朝、リュックの中身を見てびっくりしたよ。

昨日のお菓子が、まるで魔法にかけられたように変わっていたんだ。オマケのついたお菓子や小さなチョコレートに変わっていた。僕が寝ている間に、父はコンビニへ行ってくれたんだね。僕は食べかけのお菓子でも全然気にしてなかったけど、父はそんな僕のことを思って、わざわざ買いに行ってくれたんだ。

今思い返すと、あの時の父の心境がよくわかる。母がいない家庭の中で、僕のために何かしてあげたいと思ってくれていたんだろう。小さなことかもしれないけど、父のその行動が、今でも僕の心に深く残っているんだ。

母の不在中、父は家族を支えてくれていた。そして僕には、そんな父の小さな優しさが、今も大きな温もりとなって残っている。あの時の父の優しさに、心から感謝しているよ。

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