平和な世界で

公開日: 夫婦 | 悲しい話 | 戦時中の話

空と太陽の光(フリー写真)

あなたへ

あなたが、戦地にお向かいになってからもう、何度目の夜でしょう。

娘も、こんなに大きくなって。

あなた、見ていてくれていますか?

あの時、私はあなたに言いました。

「お国のために、立派に死んで来てください」

私はあなたの小さくなって行く背中に、いつまでも手を振り続けました。

幾度となくくれた、戦地からのお便り、何よりの私の心の支えだったんですよ。

不思議と、あなたはいつも私の傍に居てくれている。

そう思っていましたから。

私は今でも後悔しています。

あの時、非国民と言われようが

「無事に帰って来てください」

と、ちゃんと言えば良かった。

今日は、あなたの娘の20歳の誕生日。

あなた、わたし、この子を立派に育て上げることが出来ているでしょうか?

私、信じていますよ。

いつか、私の人生が終わる時が来たら、あなたは私に

「よく頑張ったね」

と言ってくれると。

今度生まれ変わることが出来たなら、またあなたと一緒がいい。

平和な世界で、ゆっくり散歩なんかしたいものだわ。

毎日笑って、毎日手を繋いで、毎日キスして過ごすんです。

とても、素敵じゃないですか?

わたしは、あなたをずっと愛しています。

いつかまた出会った時は、またあなたに恋をします。

その日まで、どうか気長に待っていてくださいね。

関連記事

旧日本兵の方(フリー写真)

やっと戦争が終わった

祖父が満州に行っていたことは知っていたが、シベリア行きが確定してしまった時に、友人と逃亡したのは知らなかった。 何でも2、3日は友人たちと逃亡生活を過ごしていたが、人数が居ると目…

ウェディングドレスの女性(フリー写真)

俺の娘が、俺の嫁になった話

俺には、嫁がいない。 正確に言えば、嫁はいたのだが、病気で先立ってしまった。 ただ、俺には10歳の娘がいる。 娘は本当にヤンチャで、しょっちゅうケンカして帰って来る…

美しい人生(フリー写真)

お帰りなさい

マニュエル・ガルシアは元気で頼もしく、近所でも働き者と評判の父親だった。 妻に、子供に、仕事に、将来、全て計画通りに運んでいた。 ある日、マニュエル・ガルシアは腹の痛みを訴…

アパート

優しい味のおにぎり

もう20年以上前のことです。古びたアパートでの一人暮らしの日々。 安月給ではあったが、なんとか生計を立てていました。隣の部屋には50代のお父さんと、小学2年生の女の子、陽子ちゃ…

手を繋ぐ夫婦(フリー写真)

最愛の妻が遺したもの

先日、小学5年生の娘が何か書いているのを見つけた。 それは妻への手紙だったよ。 「ちょっと貸して」 と言って内容を見た。 まだまだ汚い字だったけど、妻への想いが…

ゲームセンター(フリー写真)

嬉しそうな笑顔を

うちのゲーセンに、毎日のように来ていたお前。 最近全然見ないと思ったら、やっと理由が判ったよ。 この前、お前の母ちゃんが便箋を持って挨拶に来たんだよ。 こちらで良くお…

花

一緒に最後まで

福岡市の臨海地区にある総合病院。周囲はクリスマス商戦で賑わっていましたが、病院の玄関には大陸からの冷たい寒気が吹き込んでいました。 そんな夕暮れ時、心肺停止状態の老人を乗せた救…

アイスクリーム(フリー写真)

アイスクリーム

中学3年生の頃、母が死んだ。 俺が殺したも同然だった…。 ※ あの日、俺が楽しみに取ってあったアイスクリームを、母が弟に食べさせてしまった。 学校から帰り冷凍…

夫婦の手(フリー写真)

23年間のリセット

俺と嫁は、高校の時からの付き合いだった。 付き合った切っ掛けは、同じ委員会に所属したこと。 高校の文化祭で、俺と嫁は同じ仕事をした。 準備から事後まで、約一ヶ月間同じ…

靴を持つ夫婦(フリー写真)

二つの指輪

「もう死にたい…。もうやだよ…。つらいよ…」 妻は産婦人科の待合室で、人目もはばからず泣いていた。 前回の流産の時、私の妹が妻に言った言葉…。 「中絶経験があったりす…