息子が教えてくれた

公開日: ちょっと切ない話 | ペット | 子供 | 家族 |

猫(フリー写真)

ある日、子供が外に遊びに行こうと玄関の戸を開けた。

その途端、まるで見計らっていたかのように、猫は外に飛び出して行ってしまいました。

そして探して見つけ出した時には、あの子は変わり果てた姿になってしまった。

私はバスタオルにあの子をくるみ、その場で泣き崩れてしまいました。

自転車で通り過ぎる人、横を走る車、みんなが止まり

「どうしたの? 大丈夫?」

と声を掛けて来てくれた。

しかしその声にも答えられず、私は声を上げてあの子を抱きかかえて泣いた。

まだ体が温かかったことが、悔しかった。

毎朝、あの子は決まった時間にパパを起こし、餌をねだるのが日課であった。

パパは眠い目をこすりながらも、おねだりするあの子に餌をあげてから朝の一服をする。

あの子が死んだ次の日の朝、パパはいつもの時間に起きて来た。

そして、ソファーに座り煙草に火を点けた。今日は足にまとわり付いて来るあの子が居ない。

パパの背中が寂しそうで、また涙が込み上げた。

あの子はいつも長男と一緒に二階へ上がり、長男のベットで一緒に寝ていた。

あの子が死んだ時は呆然としていた長男が、夜にベットで泣いていた。

私は声を掛けてあげることが出来なかった。

親として、悲しんでいる子供を慰めてあげなければいけなかった。

でもその長男の姿を見た私は、その場でうずくまって声を殺して泣き崩れてしまった。

食事の用意をしていても、掃除をしていても、涙が勝手に溢れて来る。

泣いている私に息子は、

「次はどこ掃除する? 手伝うよ」

と優しく声を掛けてくれた。

「ママが隊長で、僕は副隊長になって掃除しようっ!」

泣きっ放しで不細工になっている私は、

「隊長ばっかで部下がいないじゃん」

と、ぐしゃぐしゃの顔で笑った。

あの子が死んでから初めて笑った。

くよくよしていたらいけないことを、息子が教えてくれたようで情けなかった。

今日で、もう泣くのは終わりにしよう。

あの子との沢山の思い出を胸に仕舞い、今日からいつものママに戻るからね♪

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