猫の導き

公開日: ペット | 心温まる話 |

白猫(フリー写真)

小学生の頃、親戚の家に遊びに行ったら、痩せてガリガリの子猫が庭にいた。

両親にせがんで家に連れて帰り、その猫を飼う事になった。思い切り可愛がった。

猫は太って元気になり、小学生の私を途中まで迎えに来てくれるようになった。

尻尾をパタンパタンしてくれるのが可愛かった。

いつも一緒に帰っていたけれど、六年生の林間学校に泊りがけで行っている時に、車に轢かれて死んでしまった。

もう、猫は飼わないと思った。

年月が過ぎ、私は就職してバス通勤をするようになった。

仕事が上手く行かず、辞めようかどうしようか迷っていた。

バスを降りるといつも我慢していた仕事の悩みが噴出して、泣きながら暗い夜道を歩いていた。

そんなある日、バスを降りて歩いていると、少し先に白い猫がいた。

その猫は振り返りながら距離を取って私の前を歩いて行く。

坂を上がり、いくつもの曲がり道を曲がって行く。

私の家に向かって。

家の前に出る最後の曲がり角を曲がると、その猫の姿はなかった。

数日そうやって猫に先導されるように家に帰る毎日が過ぎた。

ある日、いつものように待っていてくれる猫を見て気が付いた。

尻尾をぱたん、ぱたんとゆっくり上げて下ろす仕草。

小学生の時に飼っていた猫と同じ。

思わず猫の名を呼んだ。

振り返った猫は一声鳴いて、また家に向かって歩いた。

涙が出て仕方がなかった。

心配して出てきてくれたんだね、ありがとう、ごめんね。

大丈夫だからね。もう、安心して、いるべき所に帰っていいよ…。

後ろ姿に向かって呟いた。

最後の曲がり角を曲がる前に猫は振り返った。

近付いて撫でたかったけど、近寄ったら消えてしまいそうで、もう一度呟いた。

ありがとうね、大丈夫だからね。

そして、猫は曲がり角を曲がった。

ふと後ろが気になって振り返ると、白く小さな塊がふっと消えて行くところだった。

そこは林間学校に行って帰らない私を待ち続けて、猫が車に轢かれた場所だった。

それからもうその白い猫は二度と姿を見せることはなくなった。

関連記事

空(フリー写真)

お盆のある日

私には4年前、赤ちゃんの時に亡くなった子どもがいました。 昨年の8月のお盆のある時、上の娘が空を見上げて 「お母さん、空見てみて。ほら、空の雲の間に光っているところあるで…

夫婦(フリー写真)

幸せなことは何度でもある

結婚5年目に、ようやく待ちに待った子供が産まれた。 2年経って子供に障害があることが判明し、何もかもが嫌になって子供と死のうと思った。 そしたら旦那がメールが届いた。 ※…

空の太陽(フリー写真)

祖父が立てた誓い

三年前に死んだ祖父は、末期癌になっても一切治療を拒み、医者や看護婦が顔を歪めるほどの苦痛に耐えながら死んだ。 体中に癌が転移し、せめて痛みを和らげる治療(非延命)をと、息子(父)…

インドネシアの朝焼け(フリー写真)

インドネシア建国の神話

1602年、オランダはジャワ島に東インド会社を設立し、植民地経営を始めました。 首都のジャヤカルタはバタヴィアに改称され、以降350年間に渡って、オランダは東ティモール以外の領…

教室

笑顔のつながり

私の中学時代は、新興住宅地に位置しており、ほとんどの生徒が持ち家に住む裕福な家庭出身でした。お母さんが専業主婦である家庭が多く、いじめや仲間はずれが皆無という幸せな環境でした。 …

手紙

母の願い

毎日の小さな痛みや苦しみがあっても、子供たちが元気でいることが、私にとっての最大の喜びです。子供たちの笑顔や元気な声を聞くと、心から幸せを感じます。子供たちがありがとうと言ってくれる…

吹雪(フリー写真)

ばあちゃんの手紙

俺の母方のばあちゃんは、いつもニコニコしていて、かわいかった。 生んだ子供は四姉妹。 娘が全員嫁いだ後、長いことじいちゃんと二人暮らしだった。 そして、じいちゃんは2…

アプリコット色の子犬

涙を拭いてくれたハナ

結婚して子どもができた後、ペットショップで、トイプードルでアプリコット色の子犬と出会い、一目惚れした。 子どもの環境にも良いと言い訳して家族に迎えた。 元々はチワワ好きだ…

受験(フリー写真)

おばあちゃんの愛情

俺の家庭は自分と母親、それとおばあちゃんの三人で暮らしている。 親父は離婚していない。パチンコなどのギャンブルで借金を作る駄目な親父だった。 母子家庭はやはり経済的に苦し…

空(フリー写真)

見守ってくれた兄

我が家の仏壇には、他より一回り小さな位牌があった。 両親に聞いた話では、生まれる前に流産してしまった俺の兄のものだという。 両親はその子に名前(A)を付け、事ある毎に …