パソコンが得意な息子へ

パソコンのある部屋

俺がまだ小学校に上がる前、父親は交通事故で亡くなった。

母親は、女手ひとつで俺を育ててくれた。

※

家は貧しく、県立高校を受けたが落ちてしまい、私立に通う余裕もなかった。

選んだのは定時制高校。

そして、なんとか卒業はしたものの、俺は就職先も見つからず、ただ毎日をぶらぶらと過ごしていた。

※

そんな俺に、母はある日ぽつりと呟いた。

「そのうち、いい仕事が見つかるよ」

無理に明るく笑うその顔が、今でも忘れられない。

※

ある日、母が言った。

「パソコンぐらい使えないと、就職も難しいのかね」

そのまま電器店へ行き、パソコンをローンで買ってくれた。

インターネットの接続も、店の人に頼んでくれた。

帰り道、母が笑いながら言った。

「25万円かあ…こんな大金を使うの、父さんが死んでから初めてだね」

※

その日から、母はローン返済のために夜遅くまで働くようになった。

俺はというと、無料で遊べるネットゲームにのめり込んでいた。

毎日、朝から晩までゲーム漬け。

※

でも母は、それを「パソコンの勉強」だと信じていた。

「パソコン、上手になった?」

「いい仕事が見つかるといいね」

そう言って、何度も何度も、優しく笑ってくれた。

※

ある日、母が職場で倒れた。

病院に運ばれたと聞いて、俺はボロボロの自転車を一時間近く漕いで病院へ向かった。

病室に入ると、母は笑って言った。

「ただの過労だよ、大したことないよ」

そして、額の汗をタオルで拭いてくれた。

「パソコンが上手になったら、いい仕事が見つかって、自動車も買えるからね」

※

数日後、病院から告げられたのは現実とは思えない診断だった。

「急性白血病で、余命は三か月ほどです」

頭が真っ白になった。

※

自分がどれだけ母に負担をかけてきたか。

そして、母の想いを踏みにじるように、毎日ゲームばかりしていた自分が情けなかった。

帰り道、自転車を漕ぎながら、母との思い出が次々と浮かんでは消えていった。

※

帰宅した俺は、自分のゲームアカウントとアイテムをすべて売りに出した。

かなり安く設定したので、すぐに買い手がついた。

※

翌日、母の好きだったチーズケーキとヨーグルトを、立派な店で買った。

病室でそれを差し出すと、母は驚いて尋ねた。

「こんなお金、どこから…?」

俺は笑いながら嘘をついた。

「パソコンのバイトで8万円もらった」

母は、まるで子どものように嬉しそうに笑った。

「パソコン、上手になったんだね。いい仕事、見つかったんだね」

※

その顔が、今でも忘れられない。

あんなに信じきった笑顔に、俺は何も言えなかった。

俯いたまま、涙が落ちそうになるのを堪えていた。

※

それから、たった二週間。

その朝、母は静かに息を引き取った。

※

誰もいない病室で、母の遺品を片付けていると、看護師さんが声をかけてくれた。

「あなた、パソコンが得意なんですってね。お母さん、毎日のように自慢してたわ」

その一言で、張り詰めていた感情が崩れた。

※

俺はその場に崩れ落ち、体を震わせて、声を上げて泣いた。

母が遺してくれた無償の愛と、信じてくれた希望。

それに応えられなかった自分の愚かさと悔しさに、涙が止まらなかった。

※

母さん、ごめん。

そして、本当にありがとう。

今度こそ、俺、ちゃんと前を向いて生きていくよ。

泣ける話・感動する実話まとめ|ラクリマ

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