最後の仲直り

公開日: ちょっと切ない話 | 友情

水溜り

金持ちで、顔もそこそこ。

何より、明るくてツッコミが抜群に上手い男だった。
ボケた方が「俺、笑いの才能あるんじゃね」と勘違いしてしまうくらい、絶妙なツッコミを入れてくる。

そんな彼の周りには、いつも笑いがあふれていた。
みんな彼のそばにいたがったし、俺もその一人だった。

だけど、そんな彼を怒らせてしまった。

彼がずっと想いを寄せていた女の子に、俺たちはノリで無理やり電話をかけさせた。
ふられて落ち込む彼を見て、俺たちはゲラゲラと笑い飛ばした。最低だった。

そして一番仲が良かった俺が、一番激しく彼に怒られた。

それ以来、俺たちは口をきかなくなった。
周りの友達が同窓会や飲み会を開いて、仲直りするきっかけを何度も作ってくれたけれど、俺は意地を張って謝らなかった。

心のどこかに、
「なんで俺にだけ、あんなに怒鳴ったんだよ」
という気持ちがあったのだと思う。

そんな気持ちのまま、気づけば周りの友達とも疎遠になっていった。

ある日、久しぶりにその疎遠になった友達の一人から電話がかかってきた。

でも、俺は出なかった。

何度も何度も鳴るコールに、
「しつこいな」「なんだよ、今さら」
としか思えなかった。

その年の年末、一通の葉書が届いた。
年賀状辞退の案内だった。

彼は、その年の夏に亡くなっていた。

あのときの電話――
あれは、彼の葬式への連絡だったのだと、ようやく理解した。

けれど、葉書には住所が書かれていなかった。

俺は恥も外聞もかなぐり捨てて、彼の家に連れて行ってほしいと頼んだ。
頼んだ相手は、かつての友人だった。

彼は、どこか嬉しそうにこう言った。
「お前に久しぶりに会えて、嬉しいわ」

彼の家に着くと、応対してくれたのは彼の奥さんだった。
結婚したという噂は耳にしていたが、会うのは初めてだった。

まあ、あれから20年以上経ってるんだ。結婚していて当然かもしれない。

彼の奥さんは、出会ってすぐにこう言った。

「○○さんですね(笑)。会ってみたかったんですよー」

俺が「え?」と戸惑っていると、彼女は続けた。

「夫がね、あなたのこと、『友達の中で一番面白かった』って言ってました(笑)」

その瞬間、俺の目から涙がこぼれた。

連れてきてくれた友達も、彼の奥さんも、一緒に泣いてくれた。

そして彼の奥さんが、彼の最期の伝言を伝えてくれた。

「○○は、絶対来てくれるから。俺が死んだら(笑)」

そしてもう一言、優しく笑いながらこう言った。

「これで、仲直りですよ(笑)、○○さん」

なんでもっと早く、会いに行けなかったんだろう。
あのとき、素直に謝っていればよかった。

だけど――いつか俺も、そっちに行くときが来たらさ。

そのときはまた、あの頃みたいに笑わせてくれよ。
そして、思いっきりツッコんでくれ。

「おせーよ、バカ!」ってさ。

関連記事

母と娘(フリー写真)

強いお母さん

母さんが亡くなってから6年経つのに、まだまだ寂しがりやの私です。 昔の携帯を見つけたの。受信箱に母さんからのメール。 「まだ帰れない?」 「鍵忘れてるよ^^」 …

土砂崩れ

失われた愛と再生

幼い頃から施設で育った私は、小さいときからおじいちゃんに引き取られ、そこで三人の兄弟に出会いました。9歳の元気なL、12歳の大人っぽいS、そして仏頂面だが優しいA。私たちは親がいない…

飲食店の席(フリー写真)

ファミレスの父娘

ファミレスで一人ご飯を食べていたら、前のテーブルからおっさんと女子高生の会話が聞こえて来た。 おっさんはスーツ姿で普通の中年。痩せていて、東幹久さんに似た雰囲気。会話の流れから父…

手話(フリーイラスト素材)

手話の先生

小学生の頃、難聴の子がクラスに居た。 補聴器を付ければ普通学級でも問題無い程度の難聴の子だった。 彼女はめちゃくちゃ内気で、イジメられこそしていなかったけど、友達は居なかっ…

花嫁

父のノート

大学生の時、友人Aちゃんと彼氏B君は同棲を始めました。二人は若く、両親からは「結婚はまだまだ先のこと。責任ある交際を」と言われていました。 大学3年のとき、Aちゃんの家族にのみ…

眠る犬(フリー写真)

飼い犬との別れ

今年の元旦の事だった。 僕の実家にはKという犬が居た。 Kは僕が大学の頃に飼い始めて、かれこれ14年。 飼い始めの頃はまだちっちゃくて、公園に散歩に連れて行っても、懸…

夫婦の後ろ姿

娘になった君へ

俺が結婚したのは、20歳のときだった。 相手は1歳年上の妻。学生結婚だった。 二人とも貧乏で、先の見えない毎日だったけれど、それでも毎日が幸せだった。 ※ 結…

手を繋ぐ夫婦(フリー写真)

最高の両親

ある女性が学生の頃に暴行されました。 男性不信になった彼女はずっと男性を避けていましたが、会社勤めをしているうちに、そんな彼女に熱烈にアタックしてくる人がいました。 その…

手を繋ぐカップル(フリー素材)

可愛い彼女がいた

俺には可愛い彼女がいた。 性格は素直でスタイルも良かったが、周囲からは 「え、あの女と付き合ってるの? お幸せに(笑)」 と、よく馬鹿にされた。 彼女は頭が非常…

三度目の月

三度、月に祈った夜

俺は、これまでの人生で三度だけ、神様にすがったことがある。 ※ 最初は、七歳のとき。 両親が離婚し、俺は父方の祖父母に預けられた。 祖父母はとても厳しく、愛情…