はね出しの花が毎月消える
店の奥、水道の脇の白いバケツには、売り物にならないはね出しの花が挿してある。毎月14日、そこから一輪だけが消える。電話をかけてくるのは毎回ちがう人で、みんな22…
続きを読む:はね出しの花が毎月消える店の奥、水道の脇の白いバケツには、売り物にならないはね出しの花が挿してある。毎月14日、そこから一輪だけが消える。電話をかけてくるのは毎回ちがう人で、みんな22…
続きを読む:はね出しの花が毎月消える砥石はいつ行っても濡れていた。誰も褒めない場所で手を動かし続けた人たちの、仕事の泣ける話を十四編ならべました。職人、恩師、同じ職場にいた人、そして誰かの夜を静か…
続きを読む:仕事の泣ける話14選 手と道具の記憶海沿いの営業所に入って二年目、私はまだ誰からも名前で呼ばれなかった。誰も乗っていないのに、夕方の便で辻堂前のボタンが鳴る。配線の不良だと思った私に、定年間近の先…
続きを読む:辻堂前のボタンは鳴る母の鞄には、よく晴れた日にも折りたたみ傘が入っていた。第二日曜だけは用事があると言って、私の誘いはいつも断られた。母が入院した週、財布に残っていた交通系ICカー…
続きを読む:第二日曜に母は出かける毎月第1火曜の夕方だけ、先生は9本だけ塗らせる客としてやって来た。右手の薬指はいつも「そこはいいから」と折り曲げて、私に触らせない。3年で36回。手の震えで筆を…
続きを読む:左手だけが知っている色夜になると、フクは玄関で一度だけ短く鳴いて出かけていった。前脚の内側を灰色に汚して、朝には帰っている。夜だけ出かける犬の行き先を、私は薄々知っていて、確かめには…
続きを読む:フクは夜だけ出かけていく雨の日、片方の肩ベルトが切れたランドセルを抱えた男の子が、父の小さな店に立っていた。ランドセルの修理の代金を、父は一度も受け取らない。ただ甘いだけの人だと思って…
続きを読む:壊れていない側の縫い目返信が途絶えた一時間後に届いた、最後の一言。病室で綴られた日記、渡しそこねた指輪、ごみ箱から見つかった手紙。恋愛の泣ける話を十八本、言えなかった言葉・遺された文…
続きを読む:恋愛の泣ける話18選 切ない別れと約束夜勤明けの水曜の朝だけ、私の冷蔵庫から卵がふたつ減る。三年のあいだ、朝ごはんを作りに来る後輩を私は鬱陶しく思っていた。どうせ憐れまれているのだと。彼女が島へ発つ…
続きを読む:水曜の朝だけ卵がふたつ減る夜行バスの中でスマホが光った。『クウの散歩を記録しました 2.4キロ 38分』。もう歩けるはずのない犬の記録が、なぜ今日も届き続けるのか。確かめるためだけに引き…
続きを読む:散歩の記録が今日も届く泣ける話・長編。半島の集落で俺を育てた隣家のトキさんは、渡船に乗らず峠を歩き、いつも俺を右側に立たせた。十五の夏の約束を果たせないまま別れて三十年、廃止される渡…
続きを読む:峠を歩く人が船に乗った日婚約者の長い療養で結婚式をあきらめた私と、注文の止まったウェディングドレスを十一年間しつけ糸のまま守り続けた仕立て屋の物語。袖口の白い糸に隠されていた約束と、病…
続きを読む:十一年目に外したしつけ糸能登の小さな町では、秋祭りの曳山の笛をふたりの子どもが半分ずつ吹く。九つで戻らなかった息子の座は、二十三年空いたままだった。町が気を遣っているのだと信じていた母…
続きを読む:二十三年目に鳴った篠笛六十三歳で夜間の大学に入った元保線員の私は、講義室の窓の震えの中に線路の継ぎ目の音を聞いていました。十八年会っていない父と息子をもう一度つないだのは、私がかつて…
続きを読む:継ぎ目の音を数えた子夫は毎晩、玄関で靴を外へ向けて並べ直しました。几帳面な小言だと思い、私は十年も腹を立てていたのです。隣の棟が燃えた冬の夜、その手つきの意味をようやく知りました。…
続きを読む:夫は靴を外へ向けて並べたラクリマを応援する
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