白い絵の具を使わない人
あなたは雪を描くとき、白い絵の具を使わない人でした。夏の病室で「ゆきがみたい」と言われ、僕は真夏の富士山へ登りました。間に合わなかったあの夏と、枕元に置いていっ…
あなたは雪を描くとき、白い絵の具を使わない人でした。夏の病室で「ゆきがみたい」と言われ、僕は真夏の富士山へ登りました。間に合わなかったあの夏と、枕元に置いていっ…
夜のパン屋で働く恋人とケンカをした晩、俺は謝る代わりに、ごめん用の丸パンを笑う一通を送ってしまった。雪の峠で届くまでに五十七分かかった彼女の最後の一行と、冷蔵庫…
岡山・児島の縫製工場で裁断をしていた二十六歳の従兄弟と、毎日六時半に病室へ通った検品係の千夏さん。手編みの藍色の帽子は、ひと月ごとに新しくなりました。十五年後、…
一九九五年一月十七日の朝、神戸・魚崎の文化住宅で私と倫子を隔てたのは一メートル半でした。前の晩の些細な言い合いで別々に敷いた布団。その位置に彼女の答えが隠れてい…
父が借金を残して消え、別居していた母と暮らすことになった十九歳の建具見習い。八つ当たりした夜に恋人がくれた「がんばろうや」の一言と、彼女が会うたび作業着の袖口を…
事故で恋人を失い、右脚も失った彼女は、ある朝、彼がいちばん好きだった紺のワンピースで駅へ向かった。券売機の前で落とした百円玉を拾ったのは、見覚えのない年配の男性…
海の見える坂の町の活版印刷所で、わたしと志乃と省吾は出会いました。志乃が昏睡に落ちる前の晩、一人きりで組んでいたのは、自分自身の言葉でした。彼女が遺した最後の版…
白血病で余命わずかとなった二十七歳の船大工と、毎日欠かさず病室へ通い続けた恋人。港町の病室で最後の時を過ごす二人の姿を、当時十六歳だった私はそっと見つめていまし…
優しい恋人を世間の目で測り、つらく当たり続けてしまった俺の泣ける話です。彼女が割った父の形見の帆船模型と、事故のあとに見つけた一冊の日記が、すべてを変えました。…