失われた春

公開日: 恋愛 | 悲しい話

桜

あれは今から1年半前、大学3年になったばかりの春のことでした。

大学の授業が終わり、帰り支度をしているときに、携帯電話が鳴りました。

着信画面に映ったのは、彼の親友からのもの。

珍しいなと思いつつ電話に出ると、彼の親友は静かに告げました。

「落ち着いて聞いてください。△△(彼)が事故に遭いました。」

突然の知らせに、私の心は凍り付いたようになりました。

「彼は無事なの?」と問うと、親友の沈黙が重くのしかかってきました。

そして、絞り出すように彼の親友は言いました。

「…即死だったそうです。」

信じられない事実に、私はただただ「嘘だ」と繰り返しました。

その後の記憶はほとんどありません。

ただ、友人が電話を代わり、彼の親友が教えてくれた病院に連れて行ってくれたことだけは覚えています。

最後に彼と「会った」のは、告別式の日。

彼の棺に近づき、眠るような顔を見つめたとき、現実感はまったくありませんでした。

告別式での号泣する周囲とは対照的に、私の涙は枯れていました。

出棺の時、彼の棺が運ばれ、霊柩車に納められる瞬間、初めて彼がこの世にいないという現実が突きつけられました。

霊柩車が遠ざかる中、「行かないで」と泣き叫びました。

友人たちに抱きしめられ、その場で泣き崩れたのを覚えています。

彼の死後、私はまるで抜け殻のような日々を送っていました。

学校、バイト、日常の一切はこなしていましたが、心はどこか別の場所にあるようでした。

夜になると、彼との思い出に浸り、涙に暮れました。

しかし、彼の命日の1年後、彼のお墓参りで彼の両親と再会しました。

彼の母親からの優しい言葉が、私の心に染みわたりました。

「ありがとう。でも、彼がいなくなってしまったの。あなたが幸せになる道を見つけてください」

彼の母親に抱きしめられながら、久しぶりに心から泣きました。

その日を境に、私は少しずつ前を向く力を取り戻しました。

彼が私の悲しむ姿を見るのは辛いはずです。

だから、彼がいつも好きだった私の笑顔を取り戻すことにしました。

そして今、彼が亡くなって1年半が経ちます。

今でも時々、彼を思い出して涙することはあります。

でも、彼が私を悲しませないためにも、笑顔で日々を送ることを心掛けています。

彼と共に過ごした時間は、私の心の中でいつまでも大切な宝物です。

関連記事

南国の夕日(フリー写真)

特攻隊員の方の遺書

戦いは日一日と激しさを加えて参りました。 父母上様、長い間お世話になりました。 私も未だ十九才の若輩で、この大空の決戦に参加できることを、深く喜んでおります。 私は…

青空(フリー写真)

命懸けの呼び掛け

宮城県南三陸町で、震災発生の際に住民へ避難を呼び掛け、多くの命を救った防災無線の音声が完全な形で残っていることが判りました。 亡くなられた町職員の遠藤未希さんの呼び掛けが全て収録…

犬(フリー写真)

サチへ

前の飼い主の都合で初めて我が家に来た夜、お前は不安でずっと鳴いていたね。 最初、お前が我が家に慣れてくれるか心配だったけど、少しずつ心を開いてくれたね。 小学生の時、空き地…

彼女(フリー写真)

彼女の導き

もう2年も前の話になる。 当時、俺は医学生だった。彼女も居た。 世の中にこれ以上、良い女は居ないと思う程の女性だった。 しかし彼女はまだ若かったにも関わらず、突如とし…

廃墟

神戸からの少女

2年前、旅行先の駐屯地祭での出来事です。 例によって、特定の市民団体が来場し、場の雰囲気が少し重たくなっていました。そのとき、女子高生と思しき一人の少女がその団体に向かって歩い…

スマホを持つ人(フリー写真)

彼女からの最後のメール

あの日、俺は彼女と些細な事でケンカをしていた。 お互い険悪な状態のまま、彼女は車で仕事へ行った。 俺は友達に会い、彼女の愚痴を言いまくっていた。 そして彼女の仕事が終…

従軍(フリー写真)

祖父の傷跡

俺の爺さんは戦地で足を撃たれたらしい。 撤退命令が出て皆急いで撤退していたのだが、爺さんは歩けなかった。 隊長に、 「自分は歩けない。足手まといになるから置いて行って…

手を繋いで歩く夫婦(フリー写真)

たった一つの記憶

私の夫は、結婚する前に脳の病気で倒れてしまい、死の淵を彷徨いました。 私がそれを知ったのは、倒れてから5日も経ってからでした。 夫の家族が病院に駆け付け、携帯電話を見て私の…

終電(フリー写真)

精一杯の強がり

彼とは中学校からの付き合いでした。 中学校の頃から素直で、趣味などでも一つのことをとことん追求するような奴でした。 中学、高校、大学と一緒の学校に通い、親友と呼べる唯一の友…

病院

母は亡くなった

14年も前のこと。 母は亡くなった、癌のせいで。 私たち姉妹は、その事実を知ることなく彼女を見送った。 彼女は私の永遠の尊敬の対象、そして追い続ける理想である。 …