そのままの部屋

公開日: 家族 | 悲しい話

洗濯バサミ

4年前、会社の友人が交通事故で奥さんと4歳の長男を失いました。飲酒運転の車が彼らを轢いたのです。ニュースでも大きく取り上げられるほどの痛ましい出来事でした。加害者家族も辛い日々を過ごしましたが、当時は友人の悲しみの方が大きかったことを覚えています。

幸いにも、1歳だった娘が残されたことが救いでした。葬儀では、娘の顔を見た女性社員が泣き崩れたのを覚えています。友人は仕事を辞めようとしましたが、娘のために職場復帰を決意。その後の仕事と育児は大変だったと思います。私たちはもちろん、会社や両親、近所の人たちも彼を支えてきました。

去年、友人が初めて家に招いてくれたとき、私たちは一緒に鍋を囲んで過ごしました。その時、彼は一つの和室を見せてくれました。そこは彼の奥さんと長男が使っていた部屋で、洗濯物や玩具がそのままにされていました。部屋を見ると、友人は涙を流しました。

そんな中、娘が現れて「お父さん頑張ろうね。裕太くん(長男の名前)が見てるもんね」と言いました。娘は事故のことを知らないはずでしたが、友人は彼女に真実を伝えていたのです。父と娘は互いに励まし合いながら、亡くなった家族のことを忘れずにいました。

私たちは友人を励ますつもりで訪れたのに、逆に彼らから力をもらいました。酒も手伝って、私たちも涙を流しました。友人の家族のように、私たちもそれぞれの人生で頑張ろうと思いました。

関連記事

広島平和記念碑 原爆ドーム(フリー写真)

忘れてはならない

今日が何の日かご存知であろうか。知識としての説明は必要ないだろう。 だが一歩その先へ。それが、自分の経験であったかもしれないことを想像して頂きたい。 向こう70年、草木も生…

花嫁(フリー写真)

血の繋がらない娘

土曜日、一人娘の結婚式だったんさ。 出会った当時の俺は25歳、嫁は33歳、娘は13歳。 まあ、要するに嫁の連れ子だったんだけど。 娘も大きかったから、多少ギクシャクし…

夕日が見える町並み(フリー写真)

幸せだった日常

嫁と娘が一ヶ月前に死んだ。 交通事故で大破。 単独でした。 知らせを受けた時、出張先でしかも場所が根室だったから、帰るのに一苦労だった。 でもどうやって帰ったの…

瓦礫

わずか1.5メートルの後悔

私と倫子は、二十一歳の若さで愛の意地を張り合ってしまった。その日、些細なことから生まれた言い争いは、私のわがままから始まっていた。 普段は隣り合わせの安らぎで眠るはずが、その夜…

吹雪(フリー写真)

ばあちゃんの手紙

俺の母方のばあちゃんは、いつもニコニコしていて、かわいかった。 生んだ子供は四姉妹。 娘が全員嫁いだ後、長いことじいちゃんと二人暮らしだった。 そして、じいちゃんは2…

カップル

途切れた言葉

あの日、些細なことから彼女と言い争いをしていた。 心の中では、今にも許し合えるような感じがしていたが、彼女は険悪な雰囲気のまま、仕事へと向かってしまった。 その後、私は友…

バイオリン(フリー写真)

世界一の良い娘

昨夜、嫁とケンカした。 切っ掛けは些細なことで、小学2年生の娘がバイオリンを習いたいと言い出したことだ。 嫁「本人がやりたいなんて言い出すのは珍しいから、習わせてあげたい」…

パソコン(フリー写真)

母からのメール

私が中学3年生になって間もなく、母が肺がんであるという診断を受けたことを聞きました。 当時の自分は受験や部活のことで頭が一杯で、生活は大丈夫なのだろうか、お金は大丈夫なのだろう…

空(フリー写真)

4歳の約束

7ヶ月前、妻が他界して初めての娘の4歳の誕生日。 今日は休みを取って、朝から娘と二人、妻の墓参りに出掛けて来た。 妻の死後はあんなに、 「ママにあいたい」 「…

電車内から見る駅のホーム(フリー写真)

おとうさんという言葉

その日は約束の時間ぎりぎりに、舞浜駅のホームから階段を降りた。 雑踏の中には元妻と、ミニリュックを背負った小学3年生の息子が待っていた。 半年ほど見ない間に一回り大きくなっ…