盲導犬のサリー

公開日: 心温まる話 |

犬(フリー写真)

私がかつて知っていた盲導犬のサリーの話です。

サリーはとても頭の良い犬でした。

盲導犬としての訓練を優秀な内容で終え、飼い主さんの元へ預けられました。

サリーは晴れた日も、雨の日も、嵐の日も、ご主人様の目となって歩き続けました。

盲導犬が覚えなければならないことの一つに「絶対に飼い主に逆らわない」というものがあります。

賢いサリーももちろん、一度もご主人さまに逆らったことなどありませんでした。

機嫌が悪い日のご主人さまにどんなことを言われても、素直に従い続けていました。

時には理不尽な命令をされても、絶対に逆らったりしませんでした。

ただ、どんな盲導犬にも「定年退職」する日が必ず訪れるのです。

盲導犬は自分の欲求を全て抑え、ご主人様に仕え続けるようしつけられているので、とてもストレスが多く体力的に限界に達するのも早いそうです。

だからサリーにも、定年退職する日がやって来ました。

ご主人さまに連れられてやって来たのは、定年後の盲導犬たちが余生を暮らす施設でした。

そこで、ご主人様はサリーに語りかけたのです。

「今まで長い間、私の目になってくれてありがとう。ご苦労様でした。本当にお疲れ様。今日からはここで、ゆっくりと余生を送っておくれ」

その施設は、引退した盲導犬たちが何不自由なく暮らせる楽園のような場所です。

長年サリーにストレスをかけ続けたご主人様も、サリーにこれからはストレスを感じずに幸せに暮らして欲しい、そんな思いから選んだ場所でした。

「さぁ、サリー、これからはもう私の面倒を見なくてもいいんだよ。好きなことをして暮らせばいいんだ。これまで、本当にありがとう。さあ、お行き」

ご主人様はサリーを促しました。

楽しい余生を送ってくれよと願いを込めて送り出そうとしたのです。

でも、サリーは一歩も動きませんでした。

これまで通り、ご主人さまの目となりご主人様を守るため、ご主人様のそばを一歩も離れようとはしなかったのです。

ご主人様に、もう行っていいんだよと促されても、サリーは自らの務めを果たし続けようとしていました。

ご主人様がどんなに説得を試みても、もう自分の目の代わりを務める必要はないということを話しても、サリーはご主人様の元から離れようとはしませんでした。

これまでに一度も、ご主人様に逆らったことのなかったサリー。

生まれて初めて、ご主人様の命令に逆らった瞬間でした。

関連記事

薔薇の花(フリー写真)

せかいでいちばんのしあわせ

私が幼稚園の時に亡くなったお母さん。 当時、ひらがなを覚えたての私が読めるように、ひらがなだけで書かれた手紙を遺してくれた。 ※ みいちゃんが おかあさんのおなかにやってきて…

小学生の女の子(フリー写真)

覚えたてのひらがな

ある日、妻が長女をこっぴどく叱っていた。 私「キョーコが何かしたのか?」 妻「私の車を釘みたいなもんでひっかいとるとよ!」 私「何でそんなことしたん?」 と聞…

皺のある手(フリー写真)

私はおばあちゃんの子だよ

私は幼い時に両親が離婚して、父方の祖父母の家に引き取られ育てられました。 田舎だったので、都会で育った私とは周りの話し方から着る服、履く靴まで全てが違いました。 そのため祖…

夕日(フリー写真)

自衛隊の方への感謝

被災した時、俺はまだ中学生でした。 家は全壊しましたが、たまたま通りに近い部屋で寝ていたので腕の骨折だけで済み、自力で脱出することが出来ました。 奥の部屋で寝ていたオカンと…

レジ(フリーイラスト素材)

一生懸命に取り組むこと

その女性は、何をしても続かない人でした。 田舎から東京の大学に進学し、サークルに入ってもすぐに嫌になって、次々とサークルを変えて行くような人でした。 それは、就職してからも…

蒸気機関車(フリー写真)

まるで紙吹雪のように

戦後間もない頃、日本人の女子学生であるA子さんがアメリカのニューヨークに留学しました。 戦争直後、日本が負けたばかりの頃のことです。人種差別や虐めにも遭いました。 A子さ…

赤い糸(フリー写真)

同級生との再会

私はその日、両親、妹と住宅展示場に来ていました。 家を新築する予定となり、両親はここのところ住宅展示場巡りをしていました。 私はなかなか予定が合わず、住宅展示場に来るのはこ…

丸まるキジトラ猫(フリー写真)

猫のたま

病弱な母がとても猫好きで、母が寝ているベッドの足元にはいつも猫が丸まっていた。 小さな頃は、母の側で寝られる猫が羨ましくて、私も猫を押し退けては母の足元で丸まっていた。 『…

日記帳(フリー写真)

天国の恩人

私はキャバクラ嬢でした。 家がとても貧乏で、夜に働きながら大学へ行きました。 そんな私の初めてのお客様。 Yさん、70歳のお爺ちゃんです。 彼はとても口下手で、…

ピンクのチューリップ(フリー写真)

親指姫

6年程前の今頃は花屋に勤めていて、毎日エプロンを着け店先に立っていた。 ある日、小学校1年生ぐらいの女の子が、一人で花を買いに来た。 淡いベージュのセーターに、ピンクのチェ…