愛犬が繋いだ絆

公開日: ちょっと切ない話 | ペット |

犬(フリー写真)

11年間、飼っていた愛犬が亡くなった。

死ぬ前の半年間、自分はろくに家に帰らず、世話も殆どしなかった。

その間にどんどん衰えて行っていたのに、あまり見ることも触ることもなく、その日を迎えてしまった。

前日の夜に、もう私とはあまり会話が無くなっていた母が、兄と一緒に私の部屋に来て

「もう、動かなくなって、息だけしてるの。目も、開いたまま閉じられない。最後だから、お別れして来なさい」

と泣きながら言ってきた。

驚いて下に降りて行ったら、コタツに横たわっていた。

本当に息だけしかしておらず、段々息も弱くなっているのが解った。

怒りっぽい犬で、触るだけで唸るのに、その日は何も反応が無かった。

母と兄と三人で、泣きながら朝まで見守った。

次の日、単身赴任の父が帰って来てすぐ息を引き取った。

父のことが大好きだったから、きっと待っていたのだと思う。

家族全員揃うのを待っていたんだな。

死ぬ間際に飲んだ水は凄く美味しかったよね。幸せだったよね。

何よりも、ろくに家に帰らず遊んでばかりいて、あなたの世話をしていなかったことを悔やんでいる。

父も母も兄も泣きじゃくる中、あたしは後悔ばかりが心に残って、あまり泣くことも出来なかった。

おまえが死んでから、おかあさんとも会話するようになったよ。

今まで、お母さんの話し相手はおまえだったもんね。

おまえのお陰で、自分がどんなに親を悲しませていたかが解った。

犬にまであたしのことを相談するくらい、おかあさん悩んでいたんだね。

おまえが死んでふさぎがちだった母も最近元気になったよ。安心して眠ってね。

昨日、死んでから初めてあなたの夢を見ました。朝起きて、泣きました。

本当にありがとう。

ばいばい。

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