愛しき娘へ残す手紙
素子、素子は私の顔をよく見て、にこにこと笑ひましたよ。 私の腕の中で安心したやうに眠りもしたし、また一緒にお風呂にも入りました。 お前が大きくなって、私のことが…
続きを読む:愛しき娘へ残す手紙素子、素子は私の顔をよく見て、にこにこと笑ひましたよ。 私の腕の中で安心したやうに眠りもしたし、また一緒にお風呂にも入りました。 お前が大きくなって、私のことが…
続きを読む:愛しき娘へ残す手紙岡山・児島の縫製工場で裁断をしていた二十六歳の従兄弟と、毎日六時半に病室へ通った検品係の千夏さん。手編みの藍色の帽子は、ひと月ごとに新しくなりました。十五年後、…
続きを読む:九回ほどいた藍色の帽子君のための手話を、こっそり覚えた日々。公園の噴水前で待ち合わせをしていた俺は、手話で想いを伝える若い二人を見かける。入門書を開いた夜、鏡の前の不格好な練習、そし…
続きを読む:君のための手話金持ちで、顔もそこそこ。 何より、明るくてツッコミが抜群に上手い男だった。ボケた方が「俺、笑いの才能あるんじゃね」と勘違いしてしまうくらい、絶妙なツッコミを入れ…
続きを読む:最後の仲直り小学校の帰り道、裏門の近くで小さな黒猫の赤ちゃんを見つけた。 目は膿でふさがれ、ほとんど開いていない。 痩せ細った体を震わせながら、かすれた声で鳴いていた。 見…
続きを読む:小さな黒猫の命何もやる気が起きず会社を休み続けた俺の部屋に、ある夜、苦手な強面の上司がチャイムを鳴らした。高架下のショットバーで聞いた言葉と、机の端に置かれていた缶コーヒーの…
続きを読む:強面の上司が差し出した一杯の夜浜松の佐鳴湖のそばで飼われていた柴犬のきなこ。友人の彩は中学二年の秋から、真夏でも右の袖だけを下ろすようになりました。十年後、きなこが亡くなった晩に見せてもらっ…
続きを読む:右の袖だけを十年下ろしていた先日、俺の一人娘が嫁に行った。 目に入れても痛くない――。 そう自信を持って断言できるほど愛してきた、一人娘だった。 ※ 結婚式で娘は俺の前に立ち、はにかみなが…
続きを読む:大好きな娘へバイオリンを習いたいと言った八歳の娘のことで、俺は妻に「黙ってろ」と怒鳴った。翌日、娘は新聞の求人欄にあった封筒詰めの仕事に電話をかけ、「働きたい」と告げた。切…
続きを読む:封筒詰めの仕事に電話した娘私が看護学生だった頃の話です。 ある休日、友達と遊びに行った帰り道で、突然、目の前で交通事故が起こりました。 ひとりの小さな女の子が車に撥ねられ、道路に倒れてい…
続きを読む:天使になった少女あの日、バスで初めてあなたと会った時、突然の告白に困惑しながらも、その勇気に心打たれました。 初めてのデートは、あなたが寝坊して3時間も遅れてきたことに驚いたけ…
続きを読む:あなたの笑顔と約束九月の日曜日、建て替えを考える家族と住宅展示場を回った私は、三軒目の和室で癖のように檜の大黒柱を二回叩いた。背後で、二十年ぶりに旧い呼び名で呼ばれた。転校の日に…
続きを読む:住宅展示場で二回叩いた柱私は以前、病院で働いていました。看護師や医者ではなく、病院の清掃員です。 ある日、何も知らずに一つの病室に掃除のために入りました。部屋に入ると、そこにいたのはも…
続きを読む:またどこかで会おうね点滴の針を怖がって泣いていた五歳の子が、うん分かった約束だよ、と言って自分から腕を出しました。外で遊ぶ約束だと、私はずっと思っていました。看護師がシーツを抱えて…
続きを読む:約束したのは外遊びではないラクリマを応援する
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