玩具の指輪
高校生の頃の話。
小さな頃から幼馴染の女がいるのだが、その子とは本当に仲が良かった。
小学生の頃、親父が左手の薬指に着けていた指輪が気になって、
「何でずっと着けてるの?」
と聞いたんだ。そしたら、
「これはな、母ちゃんとの約束の指輪だよ。
これを着けていれば、離れていても一緒なんだよ」
と笑顔で言ったんだよ。
※
俺はその幼馴染と結婚したかったから、ずっと豚の貯金箱に貯めていた小遣いを千円くらい持って、商店街のアクセサリーショップのようなお店に入り、
「一番いい指輪ください!」
と店員に言ったのよ。
そしたら店員のお姉さんが、
「お母さんにあげるの?」
と聞かれたから、
「お嫁さんの!」
と言ったら、お姉さんが
「じゃあ、ちょっと待っててね」
と指輪を探し始めた。
※
暫く待っていると、お姉さんが綺麗にラッピングしてくれた指輪を持って来て、俺はありったけの小銭をお姉さんに渡した。
お姉さんは笑って、
「頑張って」
と俺を見送ってくれた。
※
俺はその幼馴染に、親父から聞いたことをそのまま言いながら指輪を渡した。
幼馴染はびっくりしたような顔をしながら、頬にチューしてくれた。
※
それから時は経ち、幼馴染は小学校卒業と同時に親の都合で転校。
俺は地元の中学に行ったのだが、別れが寂しくてさよならを言えなかったのがずっと引っかかっていた。
※
それから更に時が経って、高校に入学。
高校には可愛い子が沢山いて、好きな子もできた。
もう高校が楽しくて、幼馴染のことは忘れていた。
でも高校2年生の春休みに幼馴染の母ちゃんから電話が来て、今、幼馴染が入院していると言うのよ。
俺は今更ながら心配で、見舞いに行った。
※
見舞いに行くと、個室のベットで幼馴染が寝ている。
病院の配慮で、窓から桜が見える部屋だった。
ベットで寝ている幼馴染は物凄く綺麗で、何かドキドキした。
何の病気か分からなかったが、左手を握った。
そしたら薬指に違和感を感じ、見ると俺があげた指輪を着けていた。
なぜかは解らないが、涙が止まらなかった。
※
暫くそうしていると幼馴染が起きて、俺の泣き顔を笑顔で見ていた。
極めつけは笑顔で
「指輪を着けていたから、ずっと一緒だったよ?」
と言う。
もう涙が止まらなくて、ずっと病室で頭を撫でてもらいながら泣いた。
※
幼馴染の母ちゃんが言うには、ずっと指輪は外さずに身に着けていたらしい。
馬鹿だよなぁ、血止まっちゃうよ。
だから今度、新しい婚約指輪を買いに行って来る。