玩具の指輪

公開日: 心温まる話 | 恋愛

婚約指輪(フリー写真)

高校生の頃の話。

小さな頃から幼馴染の女がいるのだが、その子とは本当に仲が良かった。

小学生の頃、親父が左手の薬指に着けていた指輪が気になって、

「何でずっと着けてるの?」

と聞いたんだ。そしたら、

「これはな、母ちゃんとの約束の指輪だよ。

これを着けていれば、離れていても一緒なんだよ」

と笑顔で言ったんだよ。

俺はその幼馴染と結婚したかったから、ずっと豚の貯金箱に貯めていた小遣いを千円くらい持って、商店街のアクセサリーショップのようなお店に入り、

「一番いい指輪ください!」

と店員に言ったのよ。

そしたら店員のお姉さんが、

「お母さんにあげるの?」

と聞かれたから、

「お嫁さんの!」

と言ったら、お姉さんが

「じゃあ、ちょっと待っててね」

と指輪を探し始めた。

暫く待っていると、お姉さんが綺麗にラッピングしてくれた指輪を持って来て、俺はありったけの小銭をお姉さんに渡した。

お姉さんは笑って、

「頑張って」

と俺を見送ってくれた。

俺はその幼馴染に、親父から聞いたことをそのまま言いながら指輪を渡した。

幼馴染はびっくりしたような顔をしながら、頬にチューしてくれた。

それから時は経ち、幼馴染は小学校卒業と同時に親の都合で転校。

俺は地元の中学に行ったのだが、別れが寂しくてさよならを言えなかったのがずっと引っかかっていた。

それから更に時が経って、高校に入学。

高校には可愛い子が沢山いて、好きな子もできた。

もう高校が楽しくて、幼馴染のことは忘れていた。

でも高校2年生の春休みに幼馴染の母ちゃんから電話が来て、今、幼馴染が入院していると言うのよ。

俺は今更ながら心配で、見舞いに行った。

見舞いに行くと、個室のベットで幼馴染が寝ている。

病院の配慮で、窓から桜が見える部屋だった。

ベットで寝ている幼馴染は物凄く綺麗で、何かドキドキした。

何の病気か分からなかったが、左手を握った。

そしたら薬指に違和感を感じ、見ると俺があげた指輪を着けていた。

なぜかは解らないが、涙が止まらなかった。

暫くそうしていると幼馴染が起きて、俺の泣き顔を笑顔で見ていた。

極めつけは笑顔で

「指輪を着けていたから、ずっと一緒だったよ?」

と言う。

もう涙が止まらなくて、ずっと病室で頭を撫でてもらいながら泣いた。

幼馴染の母ちゃんが言うには、ずっと指輪は外さずに身に着けていたらしい。

馬鹿だよなぁ、血止まっちゃうよ。

だから今度、新しい婚約指輪を買いに行って来る。

関連記事

トイレ(フリー写真)

ドア裏の落書き

以前、大きな病院に通院していました。 ある日、男子トイレの洋式の方に入って座ると、ドア裏に小さな落書きがあったのです。 『入院して二ヶ月 治らない もうだめだ』 ※ そ…

カップル

余命と永遠の誓い

彼は肺がんで入院し、余命宣告されていました。 本人は退院後の仕事の予定を立て、これからの人生に気力を振り絞っていました。 私と彼は半同棲状態で、彼はバツイチで大分年上だっ…

子供たち

道に咲く愛

ひとりの女性の人生が、いま世界中の人々の心を揺さぶっています。 その名は楼小英(ロウ・シャオイン)。現在88歳の彼女は、腎不全を患い病床にありますが、これまでの人生で築き上げた…

豚骨ラーメン(フリー写真)

父の記憶

俺の父は、俺が6歳の時に死んでしまった。 ガンだった。 確か亡くなった当時の年齢は34歳だったと思う。 今思えばかなりの早死にだった。 呆気なく死んでしまった…

街の夕日(フリー写真)

人とのご縁

自分は三人兄弟の真ん中として、どこにでもある中流家庭で育ちました。 父はかなり堅い会社のサラリーマンで、性格も真面目一筋。それは厳格で厳しい父親でした。 母は元々小学校の教…

手

母という存在

自分が多少辛くても、腰が痛くても頭が痛くても、子供が元気にしてくれていることが、私にとっては何よりの幸せです。 元気そうな子供の姿を見たり、その声を聞くだけで、心からの喜びを感…

指切り(フリー写真)

幸せをありがとう

「いっぱいの幸せをありがとう。 私は幸せ者だ。 だって最期にあなたの顔を見られたから。 これも日頃の何とやらなのかな?」 病室のベッドで手を握りながら彼女は言…

学校(フリー写真)

学生時代の思い出

俺が中学生の時の話。 当時はとにかく運動部の奴がモテた。 中でも成績が優秀な奴が集まっていたのがバスケ部だった。 気が弱くて肥満体の俺は、クラス替え当日から、バスケ部…

駅のホームに座る女性(フリー写真)

貴女には明日があるのよ

彼女には親が居なかった。 物心ついた時には施設に居た。 親が生きているのか死んでいるのかも分からない。 グレたりもせず、普通に育って普通に生きていた。 彼女には…

瓦礫

わずか1.5メートルの後悔

私と倫子は、二十一歳の若さで愛の意地を張り合ってしまった。その日、些細なことから生まれた言い争いは、私のわがままから始まっていた。 普段は隣り合わせの安らぎで眠るはずが、その夜…