恋人からの手紙

手を組む女性(フリー写真)

昨日、恋人が死んじゃったんです。病気で。

そしたらなんか通夜が終わって、病院に置いて来た荷物とか改めて取りに行ったら、その荷物の中に俺宛ての手紙が入ってたんです。

で、よく見たらなんか

『わたしの人生は普通の人よりも短かった。だけど○○君と一緒に過ごせたことで普通の人よりもずっと幸せな日々を送れた』

とか書いてあるんです。もうね、アホかと。馬鹿かと。

お前な、そんなこといまさら言ってんじゃねーよ、ボケが。死んだ後だよ、もうお前、居ねぇんだよ。

なんか最後の方はろくに起き上がれもしなかったくせに。弱々しい字で必死で書いてたのか。おめでてーな。

よーし○○君のことずっと見守ってるぞー、とか書いてるの。もう見てらんない。

お前な、俺だってまだ言いたいこと沢山あったんだから、生き返って来いと。

愛の言葉ってのはな、もっと生きてるうちに伝えるべきなんだよ。

初めて出会った頃みたいにドギマギして、恥ずかしさのあまりいつ心臓が破裂してもおかしくない、言おうか言わざるべきか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。

今になってこんなこと言い出すやつは、すっこんでろ。

で、やっと涙堪えながら読み終わったと思ったら、最後の方に、

『わたしの事は忘れて他の人と幸せになって欲しい』

とか書いてあるんです。そこでまたぶち切れですよ。

あのな、俺はお前がホントに死んだなんて信じらんねーんだよ。ボケが。得意げな顔して何が、見守ってる、だ。

お前は本当にこの世に居ないのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。

お前、これは全部タチの悪い夢で、ホントはどっかで生きてるんちゃうんかと。

独り残された俺から言わせてもらえば、今お前に対してできる供養はやっぱり、お前のことを忘れないこと、これだね。

たとえジジイになってボケたとしても。これが俺の生き方。

お前との思い出ってのは俺には辛過ぎる。そん代わり忘れない。これ。で、それにお前の事をずっと想い続ける。これ最強。

しかしこれを貫くと次から恋人が二度と出来ないかもしれないという危険も伴う、諸刃の剣。軟弱者にはお薦め出来ない。

まあお前みたいな寂しがりやは、俺がいつかそっちに行くまで待ってなさいってこった。

関連記事

夫婦の後ろ姿

涙のビーフシチュー

昨日の朝、女房と喧嘩をした。いや、喧嘩なんてもんじゃない。酷いことをしてしまった。 原因は、前の晩の夜更かし。寝不足で不機嫌なまま起きた俺の、最悪の寝起きだった。 「仕事…

3台の携帯

優しさを遺してくれた人へ

先日、亡くなった妻のガラケーの情報を引き出してもらった。 きっかけは、何気なく立ち寄った携帯ショップで見かけた「古い携帯のデータ復旧」の広告だった。 ※ 思い返せば…

駄菓子屋(フリー写真)

駄菓子屋に集結したヒーロー

近所に古い駄菓子屋がある。 経営しているのは、お婆ちゃん一人だけ(お爺ちゃんは5年程前に病気で亡くなってしまった)。 いつもニコニコしていて、とても優しいお婆ちゃんで、お金…

公園の隅

ミルと父

家には、十年ものあいだ一緒に暮らしていた猫がいた。 名前は「ミル」。白地に淡い灰色の柄が入った、シャム猫とどこかの雑種のような子だった。 その出会いは、広場の隅に停められ…

母と娘(フリー写真)

強いお母さん

母さんが亡くなってから6年経つのに、まだまだ寂しがりやの私です。 昔の携帯を見つけたの。受信箱に母さんからのメール。 「まだ帰れない?」 「鍵忘れてるよ^^」 …

チューリップ(フリー写真)

立派なお義母さん

結婚当初は姑と上手く噛み合わず、会うと気疲れしていた。 意地悪されたりはしなかったけど、気さくでよく大声で笑う実母に比べ、足を悪くするまでずっと看護士として働いていた姑は喜怒哀楽…

水溜り

最後の仲直り

金持ちで、顔もそこそこ。 何より、明るくてツッコミが抜群に上手い男だった。ボケた方が「俺、笑いの才能あるんじゃね」と勘違いしてしまうくらい、絶妙なツッコミを入れてくる。 …

夏のスイカ(フリー写真)

夏の記憶、婆ちゃんとツトム

昨年の夏、私は高知を訪れた。 熱波が街を包み、頭がクラクラするほどだった。 R439を目指して進む中、中村市の近くに来た。 そこには、一人の婆ちゃんがビーチパラソル…

菜の花畑(フリー写真)

本当の豊かさ

中国のとある大富豪の男性が、自分の息子を田舎の土地に送りました。 裕福な生活を当たり前と思っている息子に、一度『貧しさ』というものを体験してもらい、自分たちの生活がどれだけ幸せな…

ウエディング

隠された記憶

友人の結婚披露宴に参加した際の出来事です。式も終盤に差し掛かり、新婦の父親のスピーチの時間がやってきました。 「明子。お前が生まれたばかりの頃、お母さんは病気で亡くなってしまっ…