彼女とフライパン

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛

目玉焼き(フリー写真)

一人暮らしを始める時、意気込んでフライパンを買った。

ブランドには疎いが、とにかく28センチの物を一本。

それまで料理なんて全くしなかったのだが、一人暮らしだから自分で作るしかない。そう思って買った。

空焼きしたり、油を馴染ませたり、手入れを怠って真っ赤に錆びさせたり。

それを金タワシでゴシゴシやって、また空焼きして油を馴染ませたり。

取り敢えず、目玉焼きは上手になった。

彼女が出来た。

凄く可愛いし素直。

だけど、料理は全然ダメだった(笑)。

偶の休みの日には俺が、ちょっとだけ贅沢してステーキを焼いた。

彼女はミディアム、俺はレアが好きだった。

「このフライパンは、お前と出会う前から俺と一緒に暮らしている」

と言ったら、彼女はふくれっ面になって、それから笑った。

俺と彼女は幸せな時間を過ごした。

料理が下手な彼女は、目玉焼きを何度も焦がした。

俺は笑いながら、焦げた目玉焼きを美味しく戴いた。

「大事なフライパンなのにごめんなさい」と、彼女は詫びた。

「大丈夫だよ」と金タワシで擦って空焼きしたら、彼女はフライパンの深く碧い色を

「きれいね」と言った。

彼女は突然居なくなった。

事故だった。

俺は今も時々、フライパンを金タワシで擦って空焼きする。

深く碧い色が蘇る。

彼女の「きれいね」という言葉が蘇る。

28センチのフライパンは、俺と一緒に居る。

焦げた目玉焼きはもう食べられないが、フライパンのおかげで彼女の

「きれいね」

という言葉は今でも、いつでも聞けるんだ。

ディズニーランド(フリー写真)

ディズニーランドの星

ある日、ディズニーランドのインフォメーションに、一人の男性が暗い顔でやって来ました。 「あの…落とし物をしてしまって」 「どういったものでしょうか?」 「サイン帳です…

母猫(フリー写真)

母猫の選択

Rの実家は猫好きな一家で、野良猫に餌をあげているうちに、家中猫だらけになってしまったそうだ。 住み着いた猫が仔を作り、その仔もまた仔を作る。 一時は家庭崩壊しかけたほど猫が…

ノートパソコン(フリー写真)

憶えていてくれるかなあ

君が死んでから、もう一年が経つ。 君は今も僕を、見守ってくれているのかな? 君は僕にとって、生まれて初めて出来た彼女だった。 凄く嬉しくて、幸せだったなあ。 突…

夕日と花を掴む手(フリー写真)

泣くな

ある日、教室へ行くと座席表が書いてあった。 私の席は廊下側の前から二番目。彼は窓側の一番後ろの席。離れてしまった。 でも同じクラスで本当に良かった。 ※ クラスに馴染ん…

手を握る(フリー写真)

ごうちゃん

母が24歳、父が26歳、自分が6歳の時に両親は離婚した。 母が若くして妊娠し、生まれた自分は望まれて生を受けた訳ではなかった。 母は別の男を作り、父は別の女を作り、両親は裁…

ジッポ(フリー写真)

ジッポとメンソール

俺は煙草は嫌いだ。でも、俺の部屋には一個のジッポがある。 ハートをあしらったデザインは俺の部屋には合わないけど、俺はこのジッポを捨てる事は無いだろう。 一年前。いわゆる合コ…

パソコン(フリー写真)

母からのメール

私が中学3年生になって間もなく、母が肺がんであるという診断を受けたことを聞きました。 当時の自分は受験や部活のことで頭が一杯で、生活は大丈夫なのだろうか、お金は大丈夫なのだろう…

消火活動(フリー写真)

救助から生まれた恋

5年前のある日、ある病院から火災発生の通報を受けた。 湿度が低い日だったせいか、現場に着いてみると既に燃え広がっていた。 救助のため中に入ると、一階はまだ何とか形を保ってい…

老人の手を握る(フリー写真)

祖父の気持ち

まだ幼い頃、祖父を慕っていた私はよく一緒に寝ていました。 私は祖父のことをとても慕っていたし、祖父にとっては初孫ということもあって、よく可愛がってくれていました。 小学校…

父と子のシルエット(フリー写真)

親父からのタスキ

小さい頃、よく親父に連れられて街中を走ったものだった。 生まれた町は田舎だったので交通量が少なく、そして自然が多く、晴れた日にはとても気持ちの良い空気が漂っていた。 ※ 親父…