彼女に振られた理由

公開日: 心温まる話 | 恋愛 | 長編

カップル(フリー写真)

付き合って3年の彼女に唐突に振られた。

「他に好きな男が出来たんだー、じゃーねー」

就職して2年、そろそろ結婚とかも真剣に考えてたっつーのに、目の前が真っ暗になった。

俺は本当に彼女が好きだったし、浮気も勿論したことがない。

そりゃ俺は格別イイ男って訳じゃなかったけど、彼女のことは本当に大事にしていたつもりだった。

なのに、すっげーあっさりスッパリやられた。

どうにもこうにも収まりが付かなくて、電話するも着信拒否。家に行ってもいつも留守。バイト先も辞めていた。

徹底的に避けられた。

もうショックですげー荒れた。仕事に打ち込みまくった。

それから半年、お陰で同期の中でダントツの出世頭になっていた。

彼女の事も少しずつ忘れ始めていた、そんなある日。

携帯に知らない番号から電話が掛かって来た。

最初は悪戯だと思って無視していたんだけど、何回も掛かって来る。

仕方が無いから出た。

別れた彼女の妹を名乗る女からだった。

その女が俺に言った。

「お姉ちゃんに会いに来てくれませんか?」

…彼女は白血病に罹っていて、入院していた。

ドナーがやっと見つかったものの、状態は非常に悪く、手術をしても助かる確率は五分五分だという。

入院したのは俺と別れた直後だった。

俺は病院へ駆け付けた。

無菌室に居る彼女をガラス越しに見た瞬間、俺は周りの目を忘れて怒鳴った。

「お前、何勝手な真似してんだよっ!俺はそんなに頼りないかよっ!!」

彼女は俺の姿を見て、暫く呆然としていた。

どうして俺がここに居るのか解らない、という顔だった。

その姿は本当に小さくて、今にも消えてしまいそうだった。

でも、すぐに彼女はハッと我に返った顔になり、険しい顔でそっぽを向いた。

俺はその場に泣き崩れた。堪らなかった。

この期に及んでまだ意地を張る彼女の心が。

愛しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。

その日から手術までの2週間、俺は毎日病院に通った。

けれど、彼女は変わらず頑なに俺を拒絶し続けた。

そして手術の日。俺は会社を休んで病院へ行った。

俺が病院に着いた時には、もう彼女は手術室の中だった。

手術は無事成功。しかし安心は出来なかった。

抗生物質を飲み、経過を慎重に見なくてはならないと医者が言った。

俺は手術後も毎日病院に通った。

彼女は、ゆっくりではあるけれど、回復して行った。

そして彼女は、相変わらず俺の顔も見ようとしなかった。

ようやく退院出来る日が来た。

定期的に検査のため通院しなくてはならないし、薬は飲まなくてはならないけれど、日常生活を送れるまでに彼女は回復した。

俺は当然、彼女に会いに行った。お祝いの花束と贈り物を持って。

「退院、おめでとう」

そう言って、花束を手渡した。彼女は無言で受け取ってくれた。

俺はポケットから小さい箱を取り出して中身を見せた。

俗に言う給料の3ヶ月分ってヤツ。

「これももらって欲しいんだけど。俺、本気だから」

そう言ったら、彼女は凄く驚いた顔をしてから、俯いた。

「馬鹿じゃないの」

彼女の肩が震えていた。

「うん、俺馬鹿だよ。お前がどんな思いしてたかなんて全然知らなかった。本当にごめん」

「私、これから先だってどうなるか分からないんだよ?」

「知ってる。色々これでも勉強したから。

で、どうかな? 俺の嫁さんになってくれる?」

彼女は顔を上げて、涙いっぱいの目で俺を見た。

「ありがとう」

俺は彼女を抱き締めて、一緒に泣いた。

うちの親には反対されたけど、俺は彼女と結婚した。

それから2年。

あまり体は強くないけれど、気は人一倍強い嫁さんの尻に敷かれてる俺が居る。

子供もいつか授かれば良いな、という感じで無理せず暢気に構えている。

後日談

嫁さんのお腹に新しい命が宿っていることが判った。

「子供は授かりものだから、無理しないでのんびり構えとこう」

などと言ってはいたものの、正直諦め気味だった。

まだ豆粒みたいな大きさなのだろうけど、俺と嫁さんの子供が嫁さんのお腹の中に居る。

そう思っただけで、何か訳の解らない熱いものが胸の奥から込み上げて来て、泣いた。

嫁さんも泣いていた。

実家に電話したら、結婚の時にあれだけ反対していたうちの親まで泣き出した。

「良かったなぁ、良かったなぁ。神様はちゃんとおるんやなぁ」

と言っていた。

嫁さんの親御さんは、

「ありがとう、ありがとう」

と泣いていた。みんなで泣きまくり。

嫁さんは身体があまり丈夫じゃないから、産まれるまで色々大変だろうけど、俺は死ぬ気で嫁さんと子供を守り抜く。

誰よりも強いお父さんになってやる。

でも、今だけはカッコ悪く泣かせて欲しい。

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