店長さんの嘘

公開日: 心温まる話

コーヒーのドリップ(フリー写真)

俺がまだ受験生だった頃の話。

当時、塾の自習室にはどうにも居辛くて、自習室代わりによく利用している喫茶店があった。

普段は20時前には自習室に戻っていたんだけど、そこの店長さんとふとした切っ掛けから仲良くなって、閉店ぎりぎりの21時まで居るようになった。

ある時、店長さんが

「あたしん家は近くだから、閉店後も居ていいよ」

と言ってくれた。

そこの居心地も良かったし、お言葉に甘えて22時、酷い時には23時くらいまでそこで勉強させてもらった。

遅くなった時は、夜食を作ってくれたりもしたな。

受験が終わって報告に行くと、その店長さんは自分のことのように喜んでくれた。

これは受験が終わった後、そこのバイトの子から聞いた話なんだけど、店長さんの家は凄く遠くにあるらしい。

電車四つとバス二つを乗り継いで、2時間以上掛かるらしい。

ということは店長さん、毎日帰りは午前1時過ぎだったことになる。

おまけにそんな生活を、赤の他人の俺のために3ヶ月以上も続けてくれたことになる。

その事実を知った時、俺は不覚にも泣きそうになった。

大変なはずなのに店長さん、いつも笑いながら俺のことを見守ってくれてたっけ。

受験というのは意外なところで意外な人達に支えられているものだなと、つくづく思った。

店長さん、本当にありがとう。

あなたがあの店に居なかったら、今の自分は居ません。

関連記事

豚骨ラーメン(フリー写真)

父の記憶

俺の父は、俺が6歳の時に死んでしまった。 ガンだった。 確か亡くなった当時の年齢は34歳だったと思う。 今思えばかなりの早死にだった。 呆気なく死んでしまった…

オフィス(フリー素材)

祖父の形をした幻

私の名前は中島洋二、会社員であり、幸せな家庭の父親です。 家族は妻と二人の子供、それから母親がいます。 しかし、私にとっての大切な家族の一人に、私の祖父がいます。 …

夕日と夫婦(フリー写真)

どうしてですか(゚Д゚)ゴルァ!

どうして私がいつもダイエットしている時に、(・∀・)ニヤニヤと見つめやがりますか(゚Д゚)ゴルァ! どうして私が悪いのに、ケンカになると先に謝りますか(゚Д゚)ゴルァ! …

バー(フリー写真)

痛みを知る者

自分でも理由は判らないが、気が付けば仕事のやる気を失くしていた。 会社を欠勤し、それが数日続いたある日の夜、強面の上司が自宅に来た。 最後通告かなと思いながら、上司の行きつ…

レター

芋ようかんと母の手紙

俺に言わせてください。 ありがとうって言いたいです。 いつも毒男板に来ては、煽ってばかりいた。性格の悪さを、今さらながら反省してます。 きっと俺に罰が当たったんだと…

街の夕日(フリー写真)

人とのご縁

自分は三人兄弟の真ん中として、どこにでもある中流家庭で育ちました。 父はかなり堅い会社のサラリーマンで、性格も真面目一筋。それは厳格で厳しい父親でした。 母は元々小学校の教…

裁縫(フリー写真)

妹に作った妖精衣装

俺には妹が居るんだが、これが何と10歳も年が離れている。 しかも俺が13歳、妹が3歳の時に母親が死んでしまったので、俺が母親代わり(父親は生きているから)みたいなものだった。 …

空港(フリー写真)

空港の約束

俺が25歳くらいの時の話。 当時働いていた職場に二つ年下の女の子が居て、めっちゃいい子だった。 当時はお互い恋人が居たから付き合えなかったけど、お互いかなり意識はしていたと…

会津慈母大観音像

母が綴った愛のかたち

俺の母方のばあちゃんは、いつもニコニコしていて、とてもかわいらしい人だった。 生んだ子供は四姉妹。 娘たちがみんな嫁いでからは、じいちゃんと二人で穏やかな日々を過ごしてい…

親子の手

またあなたの子供になりたい

私が6歳のとき、父が再婚し、新しい母親がやって来ました。 「今日からこの人がお前のお母さんだ」と父が紹介したその日から、彼女は私を本当の子供のように可愛がってくれました。 …