先生の決心

公開日: 仕事 | 心温まる話

教室(フリー写真)

俺のばあちゃんから聞いた、ばあちゃんの小学生時代の話をする。

ばあちゃんが小学5年生の時の担任の先生、島田先生はとても良い先生だったそうだ。

とても熱心で生徒思いの先生だったらしい。

その頃、ばあちゃんのクラスメイトに和代さんという友達がいた。

長い黒髪がとても美しい、日本的な美人だったそうだ。

だが、当時は戦後まだ間もない頃ということで、衛生事情も良くなかった。

とても残念なことに「アタマジラミ」が原因で(当時非常に多かったらしい)、自慢の長い黒髪をバッサリ切らなければならなくなってしまった。

5年生とは言え、そこは一人の女性。

自慢の髪が短くなってしまったことはとてもショックだった。

すっかり短くなってしまった髪が気に入らない和代さんだったが、それよりも他の生徒から「男の子みたいだ」とからかわれ始めたことで「もう学校なんて楽しくない」と落ち込むようになった。

「長い髪に戻りたい」と泣く和代さんを見て、担任の島田先生は心を痛めた。

和代さんは泣いて勉強にも集中できない状態だった。

そして短くなった髪を隠すためか、帽子を被って登校するようになり、帽子を脱ぐことを拒否するようになっていた。

そんな和代さんへの級友たちのからかいもエスカレートして行ったそうだ。

島田先生は何とかしてクラスの生徒らに和代さんのショートヘアを受け入れて欲しいと考えた。

児童らに映画スターの写真などを見せて「ショートヘアの女性もいるし、ロングヘアの男性もいる」と説明した。しかし残念ながら、児童らの心にはあまり響かなかった。

そしてついに島田先生はある決断をした。

それは自分の自慢の黒髪ロングヘアを和代さんと同じようにショートにする、というものだった。

これまで髪をショートにしたことが一度もなかった島田先生は、その決断をするまでに丸一週間かかったそう。

だがついに、腰まであったロングヘアをバッサリ切ったんだ。

伸ばし続けてきたロングヘアをカットすることは女性にとっては一大決心の要るもの。

しかし島田先生は、自分のロングヘアをキープすることよりも、児童の心に寄り添う気持ちを優先したそうだ。

島田先生は、和代さんとお揃いの髪留めも買い、教室で一緒に着けた。

その結果、児童らは島田先生のショートヘアをとても気に入ったようだった。

特に和代さんは、島田先生が自分と同じショートヘアで現れたのを見ると、人知れず泣いていたそうだ。

その後、クラスメイトらが和代さんのショートヘアをからかうこともなくなり、和代さんも以前の明るさを取り戻したそうです。

勉強を教えることだけが先生の仕事ではない。

身をもってそれを示してくれた島田先生。

そんな先生、今の時代にもいてくれたら良いのにな。

関連記事

夫婦の手(フリー写真)

大事なメール

嫁が風呂に入っている時に携帯を見てしまった。 メールボックスには俺が送った『今から帰る』というような、くだらないメールばかり。 でもフォルダがあって、そこにメールが一杯貯ま…

ビル

予期せぬ守り神

内定式で初めて彼女と出会った。彼女は私たちの同期だった。 彼女は聡明の代名詞のような人だった。学生時代の論文で賞を受けるほどの才女で、周囲からは期待の新星と見なされていた。 …

駅のホーム

旅で得た千円札

学生時代、ほとんどお金を持たずに貧乏旅行に出た私。帰りの寝台列車の切符を買ったら、残金はわずか80円になってしまった。食事をしていないのは丸一日、家に着くまではまだ36時間以上ある。…

朝焼け

彼女の愛と意志

親父がサラ金で作った借金を抱えて逃げてしまった。 その結果、長い間別居していた母と再び一緒に住むことになった。表面上は友達や母に明るく振る舞っていたが、内心はかなり参っていた。…

花

またどこかで会おうね

私は以前、病院で働いていました。看護師や医者ではなく、病院の清掃員です。 ある日、何も知らずに一つの病室に掃除のために入りました。部屋に入ると、そこにいたのはもうすぐこの世を去…

愛(フリー写真)

伝わる気持ち

嫁は妊娠中。もうすぐ八ヶ月。 ある日、西日の部屋でソファに座ってお腹を撫でている嫁を見ていた。 そしたら何となく言いたくなって、後ろから抱き締めて 「愛してる」 …

ファミレス(フリー写真)

兄妹の情

ファミレスで仕事をしていると、隣のテーブルに親子が座ったんです。 妙に若作りしている茶髪のお母さんと、中学一年生くらいの兄、そして小学校低学年くらいの妹です。 最初はどこに…

道場(フリー写真)

強い意志

半年程前に「強くなりたい」と相撲道場に入部して来た子。 はっきり言って運動神経も無く、体もひ弱です。 あまりここに書くのも憚られますが、とても切ない過去を持つ子供なんです。…

兄妹

兄の背中

私が2歳、兄が6歳のとき、両親は離婚した。 その頃の記憶はほとんど残っておらず、「お父さんがいない」ことすら、特に気にした覚えもない。 やがて私が小学生に上がる頃、母は再…

通帳(フリー写真)

おめでとさん

今から十年前、まだ会社に入ったばかりの頃の話。 当時の給与は手取り18万円くらいで、家に3万円を入れていた。 親に5万にしろと言われ出て行った。 一人暮らしをすれば会…