苦手だった部長
その時の部長は凄く冷たくて、いつもインテリ独特のオーラを張り巡らせている人だった。
飲みに誘っても来ることは無いし、忘年会などでも一人で淡々と飲むようなタイプ。
俺はよく怒られていたこともあり、凄く苦手だった。
※
ある日のこと、部長の解雇を伝える社内メールが全員に届いた。
あのむかつく部長が居なくなる!!
そう心の中でガッツポーズしたのは、俺だけではなかったはずだ。
※
それから一週間後、部長の最後の出勤日。
退社のセレモニーが終わるとみんなそそくさと帰って行ったが、部長と俺だけは居残って仕事を片付けていた。
送別会の開催も自ら断った部長を苦々しく思っていると、珍しく専務から呼び出された。
しぶしぶ専務室に行くと、課長と専務が待ち構えていた。
俺はそこで初めて課長から、部長解雇の真相を聞いた。
原因は俺だった。俺のミスの責任を全て部長が被ってくれたらしい。
※
話を聞いてたまらなくなった俺は急いで部署に戻ったが、部長の姿は既に無かった。
ふと自分の机の上を見ると、封の開いた買い置きのタバコ。既に一本無くなっている。
横に添えられたメモにはこう書いてあった。
「これぐらいは頂いても良いはずだ」
俺にとっては無くなったその一本が、思い出の一本です。