痛みを知る者
自分でも理由は判らないが、気が付けば仕事のやる気を失くしていた。
会社を欠勤し、それが数日続いたある日の夜、強面の上司が自宅に来た。
最後通告かなと思いながら、上司の行きつけらしいショットバーへ連れて行かれた。
※
案の定、会社に出て来ない俺を気に掛けていた様子で、俺は何故かやる気が出ない事を正直に話した。
辞めようか悩んでいるとも。
強面の上司から意外な言葉が返って来た。
※
「人間は自分で思ってるよりもギリギリのバランスで生きてるんだよ。
走れば走る程、それだけバランスを崩し易くなる。
周りが見えなくなる。
少しだけ運が悪かったり、少しだけ考えが及ばなかったり。
体の痛みや疲労は分かっても、精神の痛みや疲れは分かり辛い。
他人の事なら尚更だが、自分の事は我慢してしまう。
お前は今、少し心が疲れているだけだ。
治るまでゆっくり休め。
いつか治った時、痛みを知ったお前は少し強くなる。
そして、その分だけ人に優しくなれる。
痛みを知った者が、次に傷付いた者を癒す薬になれるんだ。
だから、今は休め。いいから。な?
んで、いつか俺が疲れ果ててたら助けろよな(笑)」