大好きな娘へ

公開日: 子供 | 家族 | 心温まる話

ウェディングドレスを着た花嫁

先日、俺の一人娘が嫁に行った。

目に入れても痛くない――。

そう自信を持って断言できるほど愛してきた、一人娘だった。

結婚式で娘は俺の前に立ち、はにかみながら言った。

「お父さん、今までありがとう。大好きです。」

その瞬間、俺の胸の奥で何かが弾けそうになった。

相手側のご両親もいたし、娘の旦那もいた。

だからこそ、俺は笑顔で送り出してやろうと思っていた。

泣くまいと決めていた。

それなのに、気が付いたら涙と鼻水が止まらず、情けない笑顔を作ってしまっていた。

俺らしい送り出し方だった。

あの時、皺くちゃの赤ん坊だったお前は、初めて俺を見て泣き出したよな。

よちよちと立ち上がろうとしては転び、泣いて俺にしがみついてきたお前。

背中よりも大きなランドセルを背負い、カメラの前で誇らしげに笑ったお前。

手が隠れてしまうほど大きな制服に身を包み、照れくさそうに微笑んだお前。

俺の洗濯物と一緒に洗わないで、と母さんに怒鳴っていた反抗期のお前。

大好きな母さんがこの世を去ったあの日、病室の窓ガラスが震えるほど泣き叫んだお前。

最初は三回に一回くらいしか成功しなかった料理も、いつしか毎回美味しく作れるようになったお前。

そして、頬を赤らめ緊張しながら、初めて男(今の旦那)を家に連れて来た時のお前の姿。

結婚式で「大好き」と言いながら、俺と同じように笑い泣きをしていたお前。

笑顔が母さんそっくりになった娘が、ついに嫁に行ったよ。

純白のウェディングドレスを着たお前は本当に綺麗だった。

若い頃の母さんに瓜二つで、懐かしくて胸が熱くなったよ。

母さん、俺も娘も元気にやってるから、心配するなよ。

あの子はきっと幸せになる。俺が保証する。

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