尊敬する先輩
俺は高校三年生で、野球部を引退したばかりです。
世界で一番尊敬する先輩が居ました。
野球は本当に下手で、一度も打席に立たせてもらった事がありませんでした。
それでも毎朝毎晩ずっと練習していて、手はいつも血とマメでボロボロでした。
ある日、俺は先輩に
「Mさん、何でそんなに頑張れるんですか?」
と聞きました。
先輩は、
「頑張らんと試合出られへんやろ?」
と答えて、また黙々とバットを振り始めました。
俺は先輩の努力に憧れ、それからずっと練習に付き合いました。
一緒に練習するうちに段々可愛がってもらえるようになって、よく話もするようになりました。
※
ある日、先輩が
「俺なぁ…いつか、試合で打席に立つのが夢なんや。ショボイ夢やろ?」
と言いました。
俺は何も言えませんでした。
でも結局、最後の練習試合(先輩はベンチ入り出来なかったため、練習試合が引退試合になりました)まで、出番はありませんでした。
最終回、何と先輩が代打で起用されました。
先輩は凄く真剣な顔で打席に立っていました。
構えは不格好でしたが、俺は絶対打てると信じました。
結果は、ファーストへのボテボテ内野ゴロでした。
先輩は全力で一塁に走りましたが、悠々アウトになってしまいました。
先輩の通算成績は、1打数0安打。
でも、誰よりも価値のある1打数だったと俺は思いました。
※
結局その年、甲子園には惜しくも届きませんでした。
先輩は引退する時、俺に泣きながら
「努力は絶対報われるからな。頑張れよ」
と言ってくれました。
俺は必死に頑張りました。
先輩に負けないぐらい練習しました。
そして、甲子園に出ました。
大学からも誘いがあり、これからも野球が続けられるようになりました。
全部先輩のお陰です。
こんなに頑張れたのも、甲子園に行けたのも、全部先輩の言葉のお陰でした。
でも、先輩は先月、電車事故で亡くなってしまいました。
仕事帰りだったそうです。
きっと仕事でも、フラフラになるまで頑張っていたのだと思います。
結局、俺は先輩に
「ありがとうございました」
としか言えませんでした。
※
今になって思います。
神様、何で先輩みたいな人が報われへんかったんですか?
才能だけで生きている人も居るのに…何で先輩は死ななあかんのですか?
おかしいじゃないですか…。