最強のセーブデータ
俺が小学生だった時の話。
ゲームボーイが流行っていた時期のことだ。
俺は車と軽く接触し、入院していた。
同じ病室には、ひろ兄という患者が居た。
ひろ兄は俺と積極的に遊んでくれた。
そしてその遊びは、全部面白かった。
中でも良く遊んでくれたのが、ゲームボーイのドラクエだ。
ひろ兄「ほらカズくん、ここでAボタン押してごらん」
俺「え? 敵いなくなったよ? 僕がたおしたの?」
ひろ兄「そうだよ、カズくん凄いね!」
ひろ兄は、どんなに俺が下手な操作をしても凄いとフォローしてくれた。
俺はそんなひろ兄がとても好きだった。
※
しかし、別れの日が来た。
ひろ兄「今日でお別れだね、カズくん。退院できて良かったね!」
俺「……………」
母「お兄ちゃんと早くお別れしなさい」
俺「……ひろ兄、バイバイ……」
母「さあ、行きましょう」
俺「……僕とひろ兄のセーブデータ、最強にしといてね!約束だよ!あと…、また遊ぼう!」
俺は最後にひろ兄にそう言って、退院した。
※
そして四年後。
俺はひろ兄に会うために、あの病院へ行った。
しかし、ひろ兄の病室がない。そこで俺は、看護婦さんに聞いてみた。
俺「すいません、ひろ兄の病室はどこですか?」
その言葉を言った瞬間、周りの空気が凍った。
看護婦「まさか、カズくん?」
看護婦「………もう、ひろ兄の病室はないのよ」
その時、俺はひろ兄がもう退院したのかと信じていた。
しかしそれは大きな間違いだった。
俺「もう退院したんですか?」
看護婦「ひろ兄は、もう居ないのよ…」
信じられなかった。
だからショックも何もなかった。
俺「そうですか…じゃあ帰ります」
看護婦「ちょっと待って。渡したい物があるの…。ひろ兄が渡して欲しいって…」
そう言って看護婦さんが渡してくれたのは、昔ひろ兄と遊んだゲームボーイとドラクエだった。
※
家に持ち帰ってすぐにドラクエを始めた。
セーブデータが一つあって、そのデータを始めた。
そのデータには最強の主人公が居た。
そしてラスボスの前、ボスが倒されていなかった。
泣いた。
声を上げて泣いた。
俺にラスボスを倒させようと、残してくれたのだ。
俺は今もそのゲームボーイを持っている。
いつか、ひろ兄と一緒に最後のボスを倒すためだ。