君が居なかったら

学校の机(フリー写真)

僕は小さい頃に両親に捨てられ、色々な所を転々として生きてきました。

小さい頃には「施設の子」とか「いつも同じ服を着た乞食」などと言われました。

偶に同級生の子と遊んでいて、

「○○君の家に行こう!」

という流れになっても、僕が遊びに行くとそこの家のお母さんが

「○○君と遊んではいけないって言ったでしょ!」

と、そこの家の子供を叱っている声が聞こえ、僕を汚い物を見るような目で

「○○は今日遊べないの…」

というようなことが日常茶飯時でした。

僕は弱い人間なので、そんな事が重なる内に、独りで居る事が一番傷つかず、一番楽なのだと思いました。

でも、僕にも言いたい事は沢山あった。

汚い服、同じ服を着ていても、僕は、僕は人の物を盗ったり、傷つけたりはしていない。

両親は居ないけど、僕にはどうする事もできないんだよ!

僕だってお父さん、お母さんが欲しいんだよ。

僕はなるべく人と接しないように生きてきた。

自分の精神、心を守る為にそうせざるを得なかった。

独りで生きて行く、誰にも迷惑をかけずに…。

高校に進学した時だった。

朝、学校に着くと僕の机に「死ね」「乞食」「貧乏神」「親無し」など、あらゆる悪口が書かれていた。

僕は、目の前が暗くなった。

僕が何かしたのか?

僕が何か…。

ただ、立ち尽くすのみだった。

その時、僕の目の前から机が無くなった。

クラスでも人気者のYが、僕の机を抱え上げていた。

僕は机で殴られるのかと思い、目を閉じた。

「行くぞ!」

とYがぶっきらぼうに言い、廊下に出て行く。

僕は後に従った。

Yは技術室へ行き、紙やすりで僕の机の落書きを消し始めた…。

Yはただ一言だけ、

「つまんない事に負けんなよ」

と言い、黙々と紙やすりで落書きを消している。

「放課後にもう一回ここでニス塗ろうぜ。そしたら元通りだ」

と言って、にっこり笑ったYを見て僕は泣いた。

Yは照れ笑いをしていた。

Yは6月に結婚する。

おめでとう。

君が居なかったら、今の僕は居ない。

恥ずかしくて面と向かっては言えないけど、幸せになって欲しい。

そしてこれからも親友でいて欲しい。

今まで本当にありがとう。

関連記事

卵焼き(フリー写真)

とうちゃんの卵焼き

この前、息子の通う保育園で遠足があった。 弁当持参だったのだが、嫁が出産のため入院していたため、俺が作ることになった。 飯を炊くくらいしかしたことがないのに、弁当なんて無理…

カップルの足(フリー写真)

母の持つ愛情

当時の俺は大学一年、彼女は大学四年。忘れもしない三年前の出来事。 大学に入ってすぐ、俺は軟式野球のサークルに入った。 サークルのマネージャーの中に彼女が居た。 一目惚…

虹(フリー写真)

自分らしく生きる言葉

嫌いな人を憎むより、大好きな人を愛したい。 悪い噂話をするより、嬉しいことや楽しいことを話したい。 そのような時間を多くして生きたい。 大切な時間を大切に。大切な人…

彼女(フリー写真)

彼女の導き

もう2年も前の話になる。 当時、俺は医学生だった。彼女も居た。 世の中にこれ以上、良い女は居ないと思う程の女性だった。 しかし彼女はまだ若かったにも関わらず、突如とし…

ラジオ

ラジオから伝わる愛

私が子供の頃から、近所に住むご夫婦に可愛がられて育ちました。その夫婦には子供がおらず、私は幼いころから特別な存在でした。 おじさんは土建屋の事務員で無口な人ですが、優しさに溢れ…

おむすび(フリー写真)

母の意志

僕が看取った患者さんに、スキルス胃がんに罹った女性の方が居ました。 余命3ヶ月と診断され、彼女はある病院の緩和ケア病棟にやって来ました。 ある日、病室のベランダでお茶を飲み…

青い花(フリー写真)

ママの棺

この間、1歳半の息子を連れて友人の家へ行った時に、友人の祖母から聞いた話です。 ※ 友人がちょうど1歳半の時、お母さんが癌になったそうです。 気付いた時にはもう手遅れで、一ヶ…

月明かり(フリー写真)

お月さんの下で

昨日、彼女の家の犬が死んだ。 彼女の家は昔、彼女の兄貴が高校生という若さで自殺してから、両親も彼女もうつ病になって酷い状態だったらしい。 そんな時に引き取って来た犬だったそ…

母の手(フリー写真)

お母さんが居ないということ

先日、二十歳になった日の出来事です。 「一日でいいからうちに帰って来い」 東京に住む父にそう言われ、私は『就職活動中なのに…』と思いながら、しぶしぶ帰りました。 実…

浜辺で子供を抱き上げる父親(フリー写真)

不器用な親父

俺の親父は仕事一筋で、俺が小さな頃に一緒にどこかへ行ったなんて思い出は全く無い。 何て言うのかな…俺にあまり関わりたがらないような人って感じ。 俺は次男だったんだけど、兄貴…