同級生の思いやり
うちの中学は新興住宅地で殆どが持ち家、お母さんは専業主婦という恵まれた家庭が多かった。
育ちが良いのか、虐めや仲間はずれなどは皆無。
クラスに一人だけ、貧乏を公言する男子が居た。
7人兄弟の長男で、子沢山と低収入で給食費も遅れるような状態。
黒であるはずの制服は何故か緑色っぽく色が褪せ、中学3年生になると急に身長が伸びたためか、上腕の3分の1くらいが出ているような状態になってしまっていた。
前のボタンもきつくて、閉められなくなっていた。
※
ある日の休み時間、何かの拍子に背中の真ん中の縫い目が裂けてしまった。
本人は笑いを誘うギャグを飛ばし、笑いながら家庭科の得意な女子が縫って直してあげた。
そこへある男子が、
「誰か兄ちゃんとか近所の人とかで、綺麗な制服余っている人いないかー?」
と、声を掛けた。
みんな家に帰って、親や隣近所に聞いたりして要らない制服を探した。
※
翌日、2着の上着と1着のズボンが彼の机に置かれた。
その日はクラス対抗バレーボール大会の日で、制服を貰った彼は嬉しそうに制服を高く持ち上げ、
「みんなー、ありがとなー。お礼に今日は俺がバンバン点取るからさー」
と言った。
夕刊の新聞配達のため帰宅部だった彼は、どこで覚えたのかと思うほどバレーボールが上手く、宣言通りに、一人で何点も点を決めクラスは優勝した。
勝った瞬間、男子は彼に駆け寄り、ポカポカ頭を叩いたり抱きついたり、最後には胴上げ。
それを見ていた女子たちは何故かみんな号泣。
良い時代だった。