沢山のキッス

クリスマスプレゼント(フリー写真)

クリスマスが近付いた時期の話です。

彼は三才の娘が包装紙を何枚も無駄にしたため、彼女を厳しく叱りました。

貧しい生活を送っていたのに、その子はクリスマスプレゼントを包むための大切な包装紙で箱を作り、クリスマスツリーの下に置いたのです。

叱られた娘は、その箱を父親に渡しながら

「パパ、これはパパのためよ」

と言いました。

箱を開けてみると中は空で、何も入っていませんでした。

父親は娘に尋ねました。

「プレゼントは空っぽの箱だけかい?」

娘は目に一杯涙を溜め、父親を見上げて言いました、

「パパ、空っぽではないの。沢山の私のキッスを入れたの。これは全部パパのためなの」

父親は呆然としました。そして娘を抱き上げ、許しを請いました。

それ以来、父親は娘から貰ったその箱を大切に保管し、いつもベッドの傍に置いていました。

そして元気を失った時にその箱を開け、娘がどれほど大きな愛を持って自分のためにキッスを入れたかを思い出し、大きな慰めを受けたのです。

関連記事

カップル(フリー写真)

彼女の日常

俺には幼馴染の女の子が居た。 小学校から中学校まで病気のため殆んど普通の学校に行けず、いつも院内学級で一人で居るせいか人付き合いが苦手で、俺以外に友達は居なかった。 彼女の…

封筒を持つ手(フリー写真)

結婚記念日おめでとう

入社4年目の時に、初めて結婚記念日の日を迎えた。 しかしその日、運悪く社内でトラブルが発生した。 下手したら全員会社に泊まりになるかもしれないという修羅場なのに、 「…

子犬(フリー写真)

子犬を買いに来た男の子

あるペットショップの店頭に『子犬セール中!』の札が掛けられました。 子犬と聞くと子供はとても心をそそられるものです。 暫くするとやはり、男の子が店に入って来ました。 …

女性の後ろ姿

君がくれた、小さな勇気

初めて彼女に会ったのは、内定式のときだった。同期として顔を合わせた。 聡明を絵に描いたような人だった。学生時代に書いた論文か何かが賞を獲ったらしく、期待の新人として注目されてい…

空(フリー写真)

才能の代わりに

小学生の時、少し知恵遅れのA君が居た。 足し算、引き算などの計算や、会話のテンポが少し遅い。でも、絵がとても上手な子だった。 彼はよく空の絵を描いた。抜けるような色合いには…

町並み

町の片隅に住む五人家族

それは、お父さん、お母さん、そして小学生の三姉妹から成る仲良しの一家だった。 しかし、時は残酷にもその家族の中心であるお母さんを奪ってしまう。 ある日の帰宅途中、悲しい交…

サイコロ(フリー写真)

あがり

俺は小さい頃、家の事情でばあちゃんに預けられていた。 当初は見知らぬ土地に来てまだ間も無いため、当然友達も居ない。 いつしか俺はノートに、自分が考えたすごろくを書くのに夢中…

タクシーの車内(フリー写真)

覚えていてくれたんですね

仕事帰りに乗ったタクシーの運転手さんから聞いた話です。 ※ ある夜、駅のロータリーでいつものように客待ちをしていると、血相を変えたサラリーマン風の男性が 「○○病院…

どんぐり(フリー写真)

どんぐり

毎年お盆に帰省すると、近くの川で『送り火』があります。 いつもは淡い光の列がゆっくり川下に流れて行くのを眺めるだけなのだけど、その年は灯篭に『さちこ』と書いて川に浮かべました。 …

猫

最期に選んだ場所

物心ついた頃から、ずっと一緒にいた猫が病気になった。 毎日名前を呼ぶと、必ず腕の中に飛び込んできていたあの子が、もう元気に動くことすらできなくなっていた。 獣医さんからも…