手話で結ぶ絆

公開日: 夫婦 | 子供 | 家族 | 心温まる話

シロツメグサ

私たちの娘は3歳で、ほとんど聞こえません。

その現実を知った日、私と妻はただただ涙に暮れました。繰り返し泣きました。

難聴という言葉が娘を別の世界の生き物に見せてしまうほど、私たちの心には重くのしかかりました。

妻は自分を責め、私も自分を責め、周りの健康な子を育てている友人たちに嫉妬さえ感じました。

私たちはどん底にいました。

私の高かったプライドは、周りに娘の障害を知られることを恐れていました。

すべてが憎らしく感じていました。

妻と娘と、この世を去ることさえ毎晩のように考えていました。

しかし、ある晩、妻が私に向かって何か手の動きをしていました。

彼女が精神的におかしくなったのかと心配になりましたが、彼女は口を動かしながらゆっくりと手を動かし始めました。

「大好き、愛してる。だから一緒に頑張ろう」という手話でした。

その時の妻の手が、この世のものとは思えないほど美しく、私にはそれが目覚ましとなりました。

何日もちゃんと娘の顔を見ていなかったことに気づいたのです。

娘は眠っていましたが、私が声をかけると、娘はにっこりと微笑んでくれました。

それから三年が経ちました。

娘の小さな手は今、巧みに動き、まるで言葉を話しているかのようです。

関連記事

秘密

豊かさの秘密

アメリカのとある大富豪が、十人のエージェントにある事を世界中で調査するように命じました。 それは「貧乏人が必ず金持ちになる方法はあるか」「金持ちが金持ちで居続けることができる方…

散歩する親子(フリー写真)

家族三人で過ごした思い出

私の母親は、私が12歳の時に亡くなりました。 ただの風邪だったのに、入院してから1週間後にはもういなくなってしまったのです。 そして、父親も私が20歳の誕生日の1ヶ月後に…

駅のホーム(フリー写真)

母を守る子

昔は JR大久保駅(兵庫県)から通勤していたのですが、週2日は午前10時までに舞子に着けば良い時期がありました。 朝はゆっくりできるし、電車は空いていて快適でした。 ホー…

差し伸べる手(フリー写真)

俺を育ててくれた兄貴

俺を育ててくれた兄貴が正月に結婚したんだ。 兄貴と言っても、血は繋がっていないけれど。 ※ 自分が5歳の時に親父が死んでから、母親が女手一つで育ててくれた。 親父と結婚…

自衛隊員の方々(フリー写真)

直立不動の敬礼

2年前、旅行先での駐屯地祭での事。 例によって変な団体が来て、私は嫌な気分になっていた。 するとその集団に向かって、一人の女子高生とおぼしき少女が向かって行く。 少女…

バイキングのお皿(フリー写真)

埃まみれのパンチパーマ

阪神大震災後の話。 当時、俺はあるファミレスの店員をしていて、震災後はボランティアでバイキングのみのメニューを無料で提供する事になった。 開店と同時に満席になって待ち列が出…

妊婦さん(フリー写真)

私の宝物

中学2年生の夏から一年間も入院した。 退院して間もなく高校受験。 高校生になると、下宿生活になった…。 高校を卒業して就職。 田舎を飛び出して、会社の寮に入った…

カーネーション(フリー写真)

親心

もう5年も前の話かな。 人前では殆ど泣いたことのない俺が、生涯で一番泣いたのはお袋が死んだ時だった。 お袋は元々ちょっと頭が弱く、よく家族を困らせていた。 思春期の…

クレヨンで描いたハート(フリー写真)

姉の思いやり

当時4歳の長女が、幼稚園の行事の参加記念品で箱に入ったクレヨンのセットを貰って来た。 ところが、事もあろうにその日の夕方、見事に全部折っちゃった。 当然、うちの嫁は激怒。叱…

おばあさん(フリー素材)

ばあちゃんいつまでもげんきでね

ばあちゃんの痴呆症は日に日に進行し、ついに家族の顔も分からなくなった。 お袋のことは変わらず母ちゃんと呼んだが、それすらも自分の母親と思い込んでいるらしかった。 俺と親父は…