おばあちゃんの愛

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 | 祖父母

病室(フリー写真)

私のばあちゃんは、いつも沢山湿布をくれた。

しかも肌色のちょっと高い物。

中学生だった私はそれを良く思っていなかった。

私は足に小さな障害があった。

けれど日常生活に支障は無く、皆より少し運動能力が劣る程度のもの。

確かに湿布はあると助かるけれど、そんなに無くても困らない。

そんなに湿布を買うくらいなら別の物を買ってくれたって良いのにと思っていた。

受験生の時。

誕生日に半年ぶりに会った婆ちゃんから誕生日プレゼントを貰った。

それは沢山の湿布だった。

湿布が7、8枚入った袋を何十個もビニール紐で縛ったやつだった。

「もう運動することもないんだし、湿布はもう必要ないよ」

私はばあちゃんにそう言って、湿布を受け取らなかった。

ばあちゃんは少し寂しそうな顔をして、

「そうかね」

と言い、お小遣いをくれた。

それから半年後、ばあちゃんは死んだ。

私は受験だからと言ってばあちゃんに会いに行かなかったから、誕生日の時に会ったのが最後になった。

葬式の最中も特に何も感じなかった。

暫くして、ばあちゃんのことも落ち着いた頃、私は軽い気持ちでそれを母へ話した。

すると、母が泣き崩れた。

私は何故母が泣くのか解らなくて、理由を聞いた。

「ばあちゃんね、癌があったのよ」

ばあちゃんは私が小学生の頃に癌が見つかっていた。

ばあちゃんは私がショックを受けるのを嫌がり、私には言わないように言ったらしい。

ばあちゃんは抗生剤があまり体に合わず、しょっちゅう発作を起こしていたらしい。

体も酷く痛むから、医者からは毎回大量の湿布を処方してもらっていたそうだ。

でも、ばあちゃんはその湿布を使うことはなかった。

その湿布の全てを私にくれていたから。

その時、私は初めて声を上げて泣いた。

ばあちゃん、あの時ばあちゃんの愛に気付けなくてごめんなさい。

受験にかこつけてばあちゃんを避けていた私はとんでもない大馬鹿野郎です。

どうかもう一度会えるのなら、ばあちゃんと話がしたいです。

今度は私から、山ほどの湿布と、愛を贈らせてください。

お願いします。

関連記事

渋滞(フリー写真)

迷彩服のヒーロー

一昨年の夏、私は5歳の息子を連れて、家から車で1時間の所にある自然博物館の昆虫展へ向かっていました。ムシキングの影響で、息子はとても楽しみにしていました。 あと数キロと言う地点で…

コスモス

愛と犠牲

数年前、私が中学2年生のときに、私たち兄弟の両親は交通事故で亡くなりました。私たちは三兄弟で、私は真ん中の子、4歳上の兄と5歳下の妹がいます。 事故後、私は母方の親戚に、妹は父…

夕日が見える町並み(フリー写真)

幸せだった日常

嫁と娘が一ヶ月前に死んだ。 交通事故で大破。 単独でした。 知らせを受けた時、出張先でしかも場所が根室だったから、帰るのに一苦労だった。 でもどうやって帰ったの…

診療所(フリー写真)

今は亡き僕の先生

僕は幼い頃から病弱で、いつも何かしらの病気にか罹っていた。 例えば、喘息、熱、インフルエンザなど。 そのような時はいつも診療所の先生に診ていただいていた。 その先生…

バスの車内(フリー写真)

悪意と善意

10歳の息子がある病気を持っており車椅子生活で、更に投薬の副作用もあり一見ダルマのような体型。 知能レベルは年齢平均のため、尚更何かと辛い思いをして来ている。 ※ …

手紙(フリー写真)

天国の妻からの手紙

嫁が激しい闘病生活の末、若くして亡くなった。 その5年後、こんな手紙が届いた。 どうやら死期が迫った頃、未来の俺に向けて書いたものみたいだ。 ※ Dear 未来の○○ …

炊き込みご飯(フリー写真)

母の炊き込みご飯

俺は小学生の頃、母の作った炊き込みご飯が大好物だった。 特にそれを口に出して伝えた事は無かったけど、母はちゃんと解っていて、誕生日や何かの記念日には、我が家の夕食は必ず炊き込みご…

猫(フリー写真)

息子が教えてくれた

ある日、子供が外に遊びに行こうと玄関の戸を開けた。 その途端、まるで見計らっていたかのように、猫は外に飛び出して行ってしまいました。 そして探して見つけ出した時には、あの子…

花屋さん(フリー写真)

助け合い

会社で、私の隣の席の男性が突然死してしまった。 金曜日にお酒を飲み、電車で気分が悪くなって、途中下車して駅のベンチで座ったまま亡くなってしまった。享年55歳。 でも、みんな…

パソコン(フリー写真)

母からのメール

私が中学3年生になって間もなく、母が肺がんであるという診断を受けたことを聞きました。 当時の自分は受験や部活のことで頭が一杯で、生活は大丈夫なのだろうか、お金は大丈夫なのだろう…