娘が好きだったハム太郎
娘が六歳で死んだ。
ある日突然、風呂に入れている最中に意識を失った。
直接の死因は心臓発作なのだが、持病の無い子だったので病院も不審に思ったらしく、俺は警察の事情聴取まで受けた。
葬式には別れた女房が彼氏同伴でやって来たが、もはや俺にはその無神経に腹を立てる気力も無く、機械的に葬儀を済ませた。
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初七日も済み、俺は独りで映画を観に行った。
娘が観たがっていた『ゴジラ』と『とっとこハム太郎』の二本立てを観ることにした。
「とっとこぉはしるよハム太郎♪」
の歌を聴いた瞬間、やはり俺は泣いた。
六歳にもなって活舌の悪い娘が、この歌を一生懸命覚えて、
「とっとこぉ、はしゆよ、はむたよお♪」
と歌っていたっけ。
ハム太郎の紙コロジーだって、クリスマスに買ってやるつもりだった。
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女親の居ない家庭だったが、少しでも女の子らしくさせたいと、服を買う時だって面倒がらずに吟味を重ねた。
学校だって、行きたいところに行かせてやるつもりだったし、成人式にはちゃんと着物を着せてやるつもりだった。
女房と離婚してから俺は100%子供のために生きることにして、必死にやって来たのに、この世に神様なんて絶対居ないんだと知った。