娘が好きだったハム太郎

公開日: ちょっと切ない話 | 子供 | 家族 | 悲しい話

親子(フリー写真)

娘が六歳で死んだ。

ある日突然、風呂に入れている最中に意識を失った。

直接の死因は心臓発作なのだが、持病の無い子だったので病院も不審に思ったらしく、俺は警察の事情聴取まで受けた。

葬式には別れた女房が彼氏同伴でやって来たが、もはや俺にはその無神経に腹を立てる気力も無く、機械的に葬儀を済ませた。

初七日も済み、俺は独りで映画を観に行った。

娘が観たがっていた『ゴジラ』と『とっとこハム太郎』の二本立てを観ることにした。

「とっとこぉはしるよハム太郎♪」

の歌を聴いた瞬間、やはり俺は泣いた。

六歳にもなって活舌の悪い娘が、この歌を一生懸命覚えて、

「とっとこぉ、はしゆよ、はむたよお♪」

と歌っていたっけ。

ハム太郎の紙コロジーだって、クリスマスに買ってやるつもりだった。

女親の居ない家庭だったが、少しでも女の子らしくさせたいと、服を買う時だって面倒がらずに吟味を重ねた。

学校だって、行きたいところに行かせてやるつもりだったし、成人式にはちゃんと着物を着せてやるつもりだった。

女房と離婚してから俺は100%子供のために生きることにして、必死にやって来たのに、この世に神様なんて絶対居ないんだと知った。

関連記事

サーカス(フリー写真)

ほどこしと親切

私がまだ十代の頃の話です。 サーカスの入場券を買うために、父と私は長い列に並んで順番を待っていました。 私たちの前に居るのは、ようやくあと一家族だけとなりました。 私…

花嫁(フリー写真)

生きているうちに

大学生の時、友人Aちゃんは彼氏B君と同棲していました。 二人ともまだ学生だったため、両親から 「交際は許すが結婚はまだまだ先の事。責任を持った交際をすること(避妊をしっかり…

月

三度の祈り

それは今から数年前、俺の人生における三度の神頼みの始まりでした。 最初は七歳の時、両親が離婚し、厳しい祖父母の元へ預けられた時のことです。 彼らから「お前のせいで別れた」…

誕生日ケーキ(フリー写真)

父への反抗期

これは反抗期の頃の話なのだけど、今でも忘れられない。 幼い頃からずっと片親で育って来た私は、父親と二人暮らしをしていた。 父は友達や親戚から見ても、誰から見ても、私を大事に…

手紙

母の願い

毎日の小さな痛みや苦しみがあっても、子供たちが元気でいることが、私にとっての最大の喜びです。子供たちの笑顔や元気な声を聞くと、心から幸せを感じます。子供たちがありがとうと言ってくれる…

ゲームセンター(フリー写真)

嬉しそうな笑顔を

うちのゲーセンに、毎日のように来ていたお前。 最近全然見ないと思ったら、やっと理由が判ったよ。 この前、お前の母ちゃんが便箋を持って挨拶に来たんだよ。 こちらで良くお…

カップル

傷跡を越えて

私は生まれながらに足に大きな痣があり、それが自分自身でもとても嫌いでした。その上、小学生の時に不注意で熱湯をひっくり返し、両足に深刻な火傷を負いました。痕は治療を重ねましたが、完全に…

父親の手を握る子(フリー写真)

もし生まれ変わったら

両親が離婚して、若くして妊娠した母親にとっては、望まれた子供ではなかった。 自分が6歳の時に母は別の男性と付き合い、父親も別の女性と関係を持ったため、両親は自分の親権を争う裁判…

手を繋ぐ夫婦(フリー写真)

最愛の妻が遺したもの

先日、小学5年生の娘が何か書いているのを見つけた。 それは妻への手紙だったよ。 「ちょっと貸して」 と言って内容を見た。 まだまだ汚い字だったけど、妻への想いが…

妊婦さん(フリー写真)

私の宝物

中学2年生の夏から一年間も入院した。 退院して間もなく高校受験。 高校生になると、下宿生活になった…。 高校を卒業して就職。 田舎を飛び出して、会社の寮に入った…