母の愛
俺は母子家庭で育った。
当然物凄く貧乏で、それが嫌で嫌で仕方がなかった。
だから俺は馬鹿なりに一生懸命勉強して、隣の県の大きな町の専門学校に入ることができた。
そして俺は貧乏な母子家庭の癖に、母に仕送りしてもらいながら学生生活を送り始めた。
今思えば母は相当懸命に働いてくれていたはずだ。
だけど馬鹿な当時の俺は、そんなことにも全く気付かずお気楽に学生生活を送っていた。
※
そして迎えたある夏休み、俺は久しぶりに実家に帰省した。
そして相変わらず貧乏くさい母と2日ほど暮らした後、一人暮らしの部屋に戻る際、冗談でちょっと言ってみた。
「荷物多いから、タクシー代くれんね?」
そしたら普段はのんびりとした性格の母が、
「何言いよんね!あんたに仕送りして母ちゃんカツカツで生活しとんのに、そんなお金出せるわけなかろ!」
と、珍しく切れた。
そんな母の姿に、若かった俺は逆切れしてしまい、勢いで電話でタクシーを呼んでしまった。
もう、俺も母も意地になっていて、どちらも口をきかなくなってしまった。
折角の久々の帰省だったのに、気まずい空気が流れ始めた頃、タクシーがやって来た。
俺も母もどちらも黙りこくったまま。
俺は無言で家を出るとタクシーに飛び乗った。
『もういいや、こんな貧乏な家とはもうお別れだ、もう二度と帰って来てやるもんか』
そんな風に思い始めた頃、タクシーがゆっくり出発。
するとその時、母が家から飛び出て来たんだ。
手には、おそらく家のどこかに大切にしまい込んでいたであろう1万円札と思しきお札が握りしめられていたんだ。
俺はつい意地を張ってしまった自分の情けなさと母への申し訳なさで、気付けばタクシーの中で一人で泣いていたよ。
みんなも忘れないでいて欲しい。
どんな時も、母は我が子のことを思ってくれているということを。
俺はタクシーの中で涙をこらえながら、母への感謝の気持ちが抑え切れなかった。
あの時、母が握りしめていた1万円札は、俺がこの先どれだけ働いて母のために恩返しをしたところで、その価値を超えることは絶対にできないくらい貴重なものだったと思う。
母ちゃんごめん。
俺、社会人になって母ちゃんをもっと綺麗な家に住まわせることができるようになったら、タクシーで迎えに行くから。
その時、俺は心に誓ったよ。
でも、母はきっとこう言うと思う。
「タクシーなんて乗らんから、そのお金でもっとしょっちゅう顔見せに戻って来て」
母ちゃん、本当にありがとう。