父が隠していた物
友人(新郎)の結婚披露宴での出来事。
タイムスケジュールも最後の方、新婦の父親のスピーチ。
※
「明子。明子が生まれてすぐ、お前のお母さんは病気で亡くなりました。
お前は母の顔を写真でしか知りません。母親の声も知りません。
母の愛情も知りません。
片親で辛い思いもしただろう。
それでも父の私に文句一つ言う事も無く、明るくて素直で、思いやりのある子に育ってくれた。
本当に手がかからない子だったし、よく家事もやってくれた。
相手にも恵まれて、幸せになってくれて、お母さんも喜んでくれていると思う。
最後にお前に謝ることがある。
明子に25年間、隠していた物がある。
いつか嫁に行く時に見せてあげようと思って、ずっと取っておいた物だ」
※
そして古ぼけた箱から一本のビデオテープを取り出し、会場のセットで再生し始めた。会場はザワザワしている。
そこには、ベットの上で笑顔で赤ちゃんを抱いている母親の姿。
そう、25年前の新婦と、その母親だった。
母親の笑顔の何と神々しい事。まさに聖母の如く…。
初めて見る母親の姿に、新婦だけでなく全員が嗚咽だったよ。
特に新婦はもう見ていられなかった。
そして、してやったりの顔の新婦の父。
あの人だけは泣く事もなく、淡々としていたんだよなあ。
そこがまた泣けるんだけど。