雨の日の再会

公開日: 家族 | 心温まる話 |

あじさい

もう二十年前のことです。私が小さい頃、両親は離婚し、私は施設で育ちました。その後、三歳の時に今の親に引き取られ、その家庭で育ちました。私はその親を本当の親と思っていましたが、中学二年生の時に父が突然亡くなり、その時初めて私が彼らの実の子ではないことを知りました。

父の死とその衝撃的な事実により、私は母を嫌い、裏切られたと感じました。父が亡くなり、裕福でなかった我が家はさらに貧しくなり、母は朝から晩まで市場とスーパーで働きました。それはすべて私のためでしたが、その当時の私には母の存在が鬱陶しく感じられました。

時々、母と登校時にすれ違うことがありましたが、私は友達に知られたくない一心で、母の存在を無視し、悪口まで言ってしまいました。それを察したのか、翌日から母は黙って足早に通り過ぎるようになりましたが、決して文句を言うことはありませんでした。

ある雨の日、市場から帰る母の姿がとても辛そうに見え、その淋しさと哀しさに私は涙が溢れました。何をしているのかと自問自答し、強い後悔とともに母に駆け寄りました。言葉が見つからず、「いってきます」とだけ言いました。母は驚いた後、涙を流し何度も「いってらっしゃい」と言ってくれました。

今、私は母こそが本当の母親だと心から思います。戸籍上の関係など関係なく、彼女の恩を返し、親としての面倒を見ていきたいと思っています。母が言うには「それが親の勤めだよ」とのこと。私にとって、この人が母親であることが、どれほど幸せなことか。今度は私が母に「いってらっしゃい」と言い続けたいと思います。

関連記事

赤ちゃんの手を握る母の手

最後の親孝行に

無職、片桐康晴被告は、京都市伏見区桂川河川敷で2006年2月1日、認知症の母親の介護で生活苦に陥り、母親を殺害し自身も無理心中を図った。 その事件の初公判は19日に行われた。 …

空港(フリー写真)

空港の約束

俺が25歳くらいの時の話。 当時働いていた職場に二つ年下の女の子が居て、めっちゃいい子だった。 当時はお互い恋人が居たから付き合えなかったけど、お互いかなり意識はしていたと…

ブランコ(フリー写真)

母ちゃんの記憶

母ちゃんは俺が4歳の時、病気で死んだんだ。 ぼんやりと憶えている事が一つ。 俺はいつも公園で遊んでいたのだが、夕方になるとみんなの母ちゃんが迎えに来るんだ。 うちの母…

赤ちゃんの手

天国に持っていく思い出

「天国にどのシーンを持って行きたい?」と高校生の時、何気なく母に尋ねたことがあります。 「アンタが生まれた瞬間かな」と、母は即答しました。 私たち家族は決して裕福ではあり…

妊婦さんのお腹(フリー写真)

皆からもらった命

母は元々体が弱く、月に一回定期検診を受けていた。 そこで、私が出来たことも発覚したらしい。 母の体が弱いせいか、私は本来赤ちゃんが居なくてはいけない所に居らず、危ない状態だ…

和室(フリー写真)

お父さん頑張ろうね

俺の会社の友人は、4年前に交通事故で奥さんと当時4歳の長男を亡くした。 飲酒運転の車が歩行中の二人を轢き殺すというショッキングな内容で、ワイドショーなどでも取り上げられたほど凄惨…

皺のある手(フリー写真)

私はおばあちゃんの子だよ

私は幼い時に両親が離婚して、父方の祖父母の家に引き取られ育てられました。 田舎だったので、都会で育った私とは周りの話し方から着る服、履く靴まで全てが違いました。 そのため祖…

道場(フリー写真)

強い意志

半年程前に「強くなりたい」と相撲道場に入部して来た子。 はっきり言って運動神経も無く、体もひ弱です。 あまりここに書くのも憚られますが、とても切ない過去を持つ子供なんです。…

太陽

笑顔の理由

俺が小学生だった頃の話だ。 同じクラスに黒田平一(仮名)、通称「クロベー」というやつがいた。 クロベーの家は母子家庭で、母親と弟との三人暮らしだった。 親戚の家の離…

ビーフシチュー

仲直りのビーフシチュー

昨日の朝、私は妻と言い争いをしてしまった。原因は、夜更かしによる私の寝不足で、朝の機嫌が非常に悪かったことだ。 「また仕事か」とぼやきながら起きる私。妻は私の気難しさを知ってい…