憧れた世界
飲んだくれの親父のせいで貧乏育ち。だから小さい頃は遠足の弁当が嫌いだった。
麦の混ざったご飯に梅干しと佃煮。
恥ずかしいから、
「見て~!俺オッサン弁当!父ちゃんが『お前の方が旨そうだ』って取り替えるんだよ~!」
とクラス中でネタにして凌いでいた。
貧乏に負けないためには、クラスのお調子者になるしかない。そう思っていた気がする。
その賜物か、破れた服を着ていても自転車が無くても、そんなキャラクターなのだとからかわれる事も虐められる事も無かった。
寧ろ一人っ子の同級生が服や自転車をくれたりして。
本当は悲しかったけどね。
※
中学に入ると毎日弁当だったが、
「いや~、毎回この弁当だとかえって親しみ湧いてさ(笑)」
と笑って食べていた。そう思うしかなかった。
母親はよく言っていたっけ。
「いつもニコニコ笑っていなさい」
せっせとやりくりして、給料日に作ってくれるコロッケとふわふわの甘い卵焼きが母ちゃんの味。
※
そんな母には感謝しているが、現在でも弁当だけがトラウマで、嫁さんと幼稚園児の坊主の弁当は俺が作っている。
もう毎夜仕込みが楽しいのなんのって(笑)。
三角おにぎりに、たこさんウィンナーに、ピカチュウの蒲鉾。
甘めに炒めた金平に、更に甘々の卵焼き。
可愛いピックまで付けてやる。
全部、あの頃『憧れた世界』だ。
嫁さんは「乙女か(笑)」と笑い、
息子は「あのね、父さんの卵焼き甘くて美味しいよ」と喜んでくれる。
あの頃の俺みたいに。
今はもう心から笑える。毎日幸せです。