傷つけて気づいた愛

公開日: ちょっと切ない話 | 夫婦 | 恋愛

スマホ

私は4年間、妻を裏切り続けた。ネットで出会った女性との不倫関係に溺れていたのだ。彼女との関係は、私がずる賢く立ち回り、妻には秘密のまま続いていた。妻はいつも遅い帰宅にも笑顔で迎えてくれる、優しい女性だった。

しかし、そんな不倫関係にも終わりが来た。彼女が新しい恋に落ち、私に別れを告げたのだ。独身の彼女に、何も言い返すことはできなかった。ただ、「良かったな」と強がって別れを受け入れた。

彼女との別れは思いのほか辛く、心に大きな穴が開いたような気がした。その寂しさを紛らわすために、これまで構ってやれなかった妻に、白々しく優しくするようになった。妻は久しぶりに見せる笑顔で、私の話に耳を傾けてくれた。

携帯メールを使わない妻に、私は教え込んだ。彼女からのメールが途絶えた寂しさを紛らわすためだった。妻からのメールを期待していながらも、自分の動機の不純さに呆れていた。

そしてある日、妻からの初メールが届いた。開いてみると、不器用な文章が並んでいた。妻の温かさと愛情が溢れるメッセージに、私は涙が止まらなかった。「初めてメエルします 線が引けない もつとちやんと、習ておけばよかた でも今はすごく幸せて感じかな」という言葉が、私の心を打った。

私は、これまで何をしていたのだろうと思った。自分の愚かさ、妻への愛おしさが混じり合い、涙が溢れた。この妻を、これから一生大切にしようと心に誓った。

関連記事

ジッポ(フリー写真)

ジッポとメンソール

俺は煙草は嫌いだ。でも、俺の部屋には一個のジッポがある。 ハートをあしらったデザインは俺の部屋には合わないけど、俺はこのジッポを捨てる事は無いだろう。 一年前。いわゆる合コ…

月明かり(フリー写真)

お月さんの下で

昨日、彼女の家の犬が死んだ。 彼女の家は昔、彼女の兄貴が高校生という若さで自殺してから、両親も彼女もうつ病になって酷い状態だったらしい。 そんな時に引き取って来た犬だったそ…

野良猫(フリー写真)

猫の痰助

11年前の2月、何も無い湖の駐車場に彼女と居ると、ガリガリの猫が寄って来た。 よろよろと俺たちの前に来ると、ペタンと地面に腹をつけて座った。 動物に無関心だった俺は『キタね…

教室

思春期の揺れる心

中学1年生のころ、私の身近にはO君という特別な存在がいました。 私たちは深く心を通わせ、漫画やCDの貸し借りを楽しんだり、放課後や週末には図書館で学び合ったりしていました。 …

猫(フリー写真)

愛猫との別れ

私がまだ高校生の冬、家で飼っている猫が赤ちゃんを産みました。しかも電気毛布を敷いた私の布団で。 五匹も産んだのですが、次々と飼い主が決まり、とうとう一匹だけになりました。 …

野球ボール(フリー写真)

父と息子のキャッチボール

私の父は高校の時、野球部の投手として甲子園を目指したそうです。 「地区大会の決勝で9回に逆転され、あと一歩のところで甲子園に出ることができなかった」 と、小さい頃によく聞か…

お味噌汁(フリー写真)

これで仲直りしよう

昨日の朝、女房と喧嘩した。と言うか酷いことをした。 原因は、夜更かしして寝不足だった俺の寝起き悪さのせいだった。 「仕事行くの嫌だよな」 と呟く俺。 そこで女房…

花(フリー写真)

母が見せた涙

うちは親父が仕事の続かない人で、いつも貧乏だった。 母さんは俺と兄貴のために、いつも働いていた。ヤクルトの配達や、近所の工場とか…。 土日もゆっくり休んでいたという記憶は無…

太陽と手のひら(フリー写真)

この命を大切に生きよう

あれは何年も前、僕が年長さんの時でした。 僕は生まれた時から重度のアレルギーがあり、何回も生死の境を彷徨って来ました。 アレルギーの発作の事をアナフィラキシーショックと言…

駅のホームに座る女性(フリー写真)

貴女には明日があるのよ

彼女には親が居なかった。 物心ついた時には施設に居た。 親が生きているのか死んでいるのかも分からない。 グレたりもせず、普通に育って普通に生きていた。 彼女には…