十円玉の価値
五百円玉と百円玉と十円玉。いちばん大きいお金はどれかと問うと、その子は迷わず十円玉を指しました。養護学園の緑の公衆電話と、毎晩磨かれた一枚の硬貨。撤去の日の三十…
読んでいるうちに、胸がじわりと温かくなる話を集めました。日常の中に隠れた誰かの優しさ、見えないところで続けられた愛情、言葉にならなかった想い。泣けるというより、しみじみと何かが伝わってくる——そんな感動する話をお届けします。
五百円玉と百円玉と十円玉。いちばん大きいお金はどれかと問うと、その子は迷わず十円玉を指しました。養護学園の緑の公衆電話と、毎晩磨かれた一枚の硬貨。撤去の日の三十…
三千部の乱丁が見つかり泊まり込みが決まった夜、工場長は私に一通の茶封筒を託しました。車中で開けると、落としたはずの押し花の栞と、鉛筆で書かれた三行の言葉。結婚記…
北陸の銭湯を継いで十七年。番台の上で妻の銀色の携帯が一度だけ震えた夜から、私は落ち着かなくなりました。綾が頑なに機種変更をしない理由は、脱衣所の棚に置かれた古い…
母子家庭で小さな惣菜屋を営みながら三人の子を育てた母。電気やガスが止まった夜も割烹着姿で笑い、夜は清掃の仕事も掛け持ちしていた母が、高校進学を諦めようとした私に…
養護施設で育った兄弟。中学を出て和菓子職人になった兄は、弟の学費のため前借りまでして仕送りを続け、自分では菓子を口にしませんでした。就職を機に誘った蔵王の温泉宿…
下町の蕎麦屋そば処やなぎ。二十歳の暮れ、病床の父が引き出しから出したのは黄ばんだ封筒でした。差出人は、僕が十二の冬に逝った母です。角に重なったテープの跡が四つあ…
三百二十円を握りしめ、入院する母へ贈り物を探して古書店を訪れた男の子あきら。棚の奥で見つけた古い星の絵本が、巡り巡って母から子へと想いを運びます。命の尊さと親子…
感動する話をお探しの方に。山岳救助隊員だった無口な父は「情熱だけは持ち続けろ」とだけ言い遺し、雪の山で要救助者を庇って亡くなりました。押し入れに遺された私のサイ…
九歳で母を亡くし荒れていた私が、父のタンスの奥に見つけたのは「二十歳のあなたへ」と書かれた一本のビデオテープでした。病室の母が遺した十五分の言葉が人生を変えてい…
心肺停止で運ばれた八十八歳の夫に、八十四歳の妻が静かに願い出たのは、自らの手で行う心臓マッサージでした。雪の夜の救急外来で研修医が見届けた夫婦の最期の時間を描く…
だめな子だと決めつけていた教え子の指導記録に、私は自分の大きな過ちを思い知りました。亡き母の形見の櫛にかすかに残る椿油の匂いと、やがて結婚式に届いた『母の席に座…
活版からオフセットへ移る頃の印刷工場で、私がいちばん苦手にしていた部長は、薄荷の飴缶から一粒を取り出し、こつんと奥歯で鳴らす人でした。あの音を叱られる合図だと思…
雨の日曜、整理だんすのいちばん下から出てきた布張りのノート。そこには妻の昼ごはんが毎日、納豆ごはんかお茶づけだと書かれていました。小さくなった茶わん、棚の上の菓…
俺の娘は四つ。妻は娘を産んですぐ家を出て、母の話を避け続けてきた。ある夕方の電車で、片腕のない人を指さした女の子に、その母親が静かに語りかける。みんな同じじゃな…
夫は、息子の産声を聞けないまま、静かに逝きました。一歳の誕生日に郵便受けへ届いた、二通の手紙。雪深い和紙の里で紙を漉く妻のもとへ、亡き夫が遺した不器用な言葉が、…