電気の点いた家を数えた青年
自衛隊の災害派遣でひと月を過ごした避難所。体育館の壁に増え続けた数字を書いていたのは、初日にトラックへ石を投げた二十歳の青年でした。撤収の日に拡声器を握った彼と…
読んでいるうちに、胸がじわりと温かくなる話を集めました。日常の中に隠れた誰かの優しさ、見えないところで続けられた愛情、言葉にならなかった想い。泣けるというより、しみじみと何かが伝わってくる——そんな感動する話をお届けします。
自衛隊の災害派遣でひと月を過ごした避難所。体育館の壁に増え続けた数字を書いていたのは、初日にトラックへ石を投げた二十歳の青年でした。撤収の日に拡声器を握った彼と…
この前、娘が大学受けたんですよ、初めてね。 で、生まれて初めて娘の合格発表を迎えた訳ですわ。正直、最初は合格発表を見に行った娘の電話を待つのなんて簡単だと思って…
この前、一人娘が嫁に行った。 目に入れても痛くないと断言出来る一人娘が嫁に行った。 結婚式で、 「お父さん、今までありがとう。大好きです」 と言われた。 相手側…
越前の谷にあった小さな駄菓子屋。お金のない子にだけ、婆ちゃんは白い紙で菓子を包んでくれました。立ち退きを迫られたあの日、三十人の大人が黙って店の前に並びます。二…
宮城の白石で温麺を作る小さな工場の二代目です。娘のバイオリンを巡って女房と喧嘩した翌日、小学二年の娘が封入作業の求人へ自分で電話をかけていたと知りました。毎晩、…
富山の砺波平野で三社柿を作る家に嫁いだ私は、喜怒哀楽を見せない姑にずっと身構えていました。台風の晩、崩れた土が家を押したとき、降る皿の下で私を庇ったのは足の悪い…
タオル工場で三十年、白い生地の傷を探し続けた母。傷を見つけるたびに結んでいた赤い一本の糸には、娘が二十四年ものあいだ気づかなかった意味がありました。母がためらわ…
背中を向けたまま何も言わない父でした。合格の日に病室から掛かってきた一本の電話と、物置のブルーシートの下で五年ものあいだ鳴りつづけていた小さな音の正体。浜松のピ…
萩の夏みかん菓子屋に十八で住み込んだ私が、亡き師匠の遺した一本のテープを聞いたのは、その娘の結婚式の日でした。二十年ものあいだ剝がれたラベルの名前を読み違えてい…
雪深い二月の花屋に、小さな女の子がたった一人で花を買いに来ました。片方だけ握られたミトンと、母のために選んだオレンジのチューリップ。花屋の主人が何年経っても忘れ…
妻の入院中、北海道十勝の酪農家である私が、息子の遠足の弁当を作ることになりました。牛乳を入れすぎて崩れた卵焼きと、まだ字の書けない四歳が渡してくれた一枚の手紙。…
妻の連れ子だった娘を、鬼瓦を彫る職人の私は十二年かけて育てました。血の繋がらない父娘に向けられた世間の冷たい目、そして結婚式で娘が静かに明かした「鬼の裏に彫られ…
血の繋がらない兄が、身寄りを失った中学生の私を引き取り、大学まで出してくれました。新潟三条の研屋で、兄が十年間だけ研がずにいた母の菜切り包丁。そこには、あと一度…
記録的な大雪で三日間も孤立した郡上の集落。配給の列で壊れたラジコンを抱えた男の子に、中学生の少年が自分のものを差し出しました。その底に残っていた四角い跡が語る、…
母が遺したのは、ひらがなだけの短い手紙でした。押入れの箱の底から出てきた十九枚の書き損じと、右手の親指だけが少し太い七組の手袋。手袋の町で育った私が、二十八年目…