蔵のいちばん奥の桐の長持
寂しいときや困ったときだけ、私は決まって良い香りに包まれました。二十歳の夏、取り壊しの決まった蔵で一番奥の桐の長持を開けると、同じ香りが顔を包んだのです。着物の…
おじいちゃんおばあちゃんとの思い出は、大人になってから突然よみがえります。手のぬくもり、口癖、一緒に食べたもの——祖父母にまつわる泣ける話は、遠い記憶を優しく呼び起こしてくれます。
寂しいときや困ったときだけ、私は決まって良い香りに包まれました。二十歳の夏、取り壊しの決まった蔵で一番奥の桐の長持を開けると、同じ香りが顔を包んだのです。着物の…
糖尿病を患っていて、目が見えなかったばあちゃん。 一番家が近くて、よく遊びに来る私を随分可愛がってくれた。 思えば、小さい頃の記憶は、殆どばあちゃんと一緒に居た…
俺は小さい頃、家の事情でばあちゃんに預けられていた。 当初は見知らぬ土地に来てまだ間も無いため、当然友達も居ない。 いつしか俺はノートに、自分が考えたすごろくを…
佐賀の有田で染付の絵付けをしていた祖父は、脳梗塞で右手が利かなくなりました。余命を家族だけが知っていたはずのその年の翌日から、祖父は左手で字を書く練習を始めます…
五十年のあいだ、薬を一粒も飲まずに逝った銭湯の祖父。葬儀のあと、常連の理髪師が届けてくれた手紙には、生まれたばかりの私の命と引き換えに立てた誓いが綴られていまし…
蛍は亡くなった人の魂だと父は言いました。言葉少なな川漁師の父と、家を出て藍染職人になった娘。父が繕い続けた竹の火籠と、初盆の夜に籠へとまった一匹の蛍が、ついに交…
海沿いの小さな町で、お針子の祖母にひとり育てられた私の物語です。祖母が夜なべして縫ってくれたお手玉、誰にも言えなかったいじめ、そして物忘れの果てに電話越しで交わ…
父の借金、働き詰めの母、古い服しか着ない祖母。大学に落ちた春、俺の部屋に祖母が持ってきたのは、使い込まれた手提げ袋だった。通帳の一頁目に並ぶ日付の意味を知ったと…
秋田の角館で樺細工の見習いをしている俺を、認知症のばあちゃんは毎朝、郵便屋だと思って丁寧に頭を下げます。座布団の下の小さな箱と、幼い日に送った一枚の絵はがき、そ…
福井の越前和紙を漉く家の話です。祖父が倒れた雪の夜、高校二年の僕は祖母をお手洗いへ連れて行き、礼にと三千円を差し出されて断りました。その三千円が、祖母が一年に一…