カテゴリー: ちょっと切ない話

胸が締め付けられるような、あの感覚。泣けるほど悲しいわけではないのに、なぜか心のどこかに引っかかって残る話があります。後悔、別れ、言えなかった言葉。切なさの中にこそ、人が生きる美しさがある——そんな短編をまとめました。

麦笛が鳴ったら

弟との約束は、いつか私が迎えに行くこと。戦時中、出征する弟に一本の麦笛を持たせた姉。けれど遺された手帳に綴られた、たった一行で、私はようやく気づく。暗がりが怖い…

九官鳥のおかえり

九官鳥のおかえりという二言だけが、四十年たった今も耳の奥に残っている。北の山あいの谷へ単身赴任した若き日、凍える独りの夜を支えてくれた一羽の鳥に、私はある約束を…

鳴らさなかった風鈴

いつか島へ行こう——七海と交わした親友との約束を、私は仕事を口実に先延ばしにし続けた。彼女がいなくなった夏、鳴らさないまま仕舞っていた水色の風鈴を抱え、私は初め…

父の独楽

父の独楽を、私は四十年ものあいだ箱の奥に仕舞っていた。戦時中、時計の修理に追われ、幼い息子と遊んでやれなかった父。手すきになったらいっしょに回そう、という約束は…

送り状の控えを数えた朝

東京のアパートに、毎月一本だけ島の醤油が届いていた。送り状の控えを、俺は一度も見たことがなかった。父が倒れ、四十九日の翌日、四十年勤めたサチさんが前掛けを外す。…

届かない手紙の宛先

不器用な父との別れと、年月を超えて届く一通の絵葉書を描く感動の短編。新潟の雪深い古書店『松露堂』を舞台に、店主と詩集を借りる中年男性が紡ぐ、家族の和解の物語。届…

妻が遺した裁縫箱

妻を喪って三年、納戸にしまった漁師着の袖口のほつれが消えていました。誰が繕ったのか。妻が遺した裁縫箱の二重底に眠る五十年前の手紙が、無口な元漁師と隣家の若い妻、…