たくましいお兄ちゃん
親戚にとても仲の良い幼い兄妹が居た。
兄は3才の康介ちゃんで、妹は2才の愛ちゃん。
当時21歳だった俺にとっても、可愛くてたまらない子供達だった。
※
しかしある年末、愛ちゃんがトラックに轢かれて亡くなった。
その愛ちゃんの家族や親戚はもちろん泣いていた。
俺はあまりにも急過ぎて実感が湧かなかった。
そして愛ちゃんの兄、康介ちゃんも泣いていなかった。
まだ3才だから、きっと何が起きたか解らないのだろうと思っていた。
※
そして火葬の前、棺桶に眠っている愛ちゃんを見られる最後の時。
みんなが最後のお別れをしている中、一人違う所へ走って行く小さな姿があった。
俺は多分康介ちゃんだろうと思い追い掛けた。すると康介ちゃんは泣いていた。
大泣きじゃない、必死に涙を堪えようとしていた。
それでも涙が出て来ていた。俺は間違いに気付いた。
康介ちゃんは、愛ちゃんが死んだ事が解らずに泣いていなかった訳ではない。
妹の前では立派でたくましいお兄ちゃんでありたいと思い、涙を堪えていたのだと。
そう理解した俺も涙が出て来た。3才の康介ちゃんの心情を思うと、本当に悲しかった。
俺は泣いている康介ちゃんの手を引っ張り、愛ちゃんの所へ連れて行った。
康介ちゃんは愛ちゃんの顔を見るなり、ついに大泣きし始めた。
「愛ちゃん行っちゃだめだよ!」
と連呼していた。
俺を含む大人達には、その言葉があまりにも胸に突き刺さった。
小さな体の康介ちゃんと愛ちゃんだけど、二人の間には大きな絆があったのだろうと思う。