小さな黒猫の命

小学校の帰り道、裏門の近くで小さな黒猫の赤ちゃんを見つけた。
目は膿でふさがれ、ほとんど開いていない。
痩せ細った体を震わせながら、かすれた声で鳴いていた。
見捨てることなんてできなかった。
どうにかしなきゃ――そう思って、その小さな命を抱きかかえた。
家に持ち帰ると、親に叱られた。
「うちは猫を飼えない」と。
代わりに、近所の野良猫に餌をあげているお宅の庭の近くに置いてくるように言われた。
どうしても納得できなかったけれど、子供だった私にはそれ以上どうすることもできず、泣きながら黒猫をその庭の近くにそっと置いた。
きっと、誰かが助けてくれるはず。
そう信じたかった。
※
数日後、その場所を通りかかった時、かすれた鳴き声が聞こえた。
もしやと思い、声のするほうへ駆け寄ると、そこにいたのはあの時の黒猫だった。
がりがりに痩せ、体には蚤がびっしりついている。
目は相変わらず開かず、弱々しく鳴くだけだった。
「やっぱり、放っておけない」
気づいた時には、私はもう黒猫を抱えて家へ走っていた。
※
もう一度、必死で親に頼み込んだ。
「全部私が責任を持つから!」
何度も何度も頭を下げ、ようやく飼うことを許してもらえた。
すぐにミルクをあげて、体をきれいに洗って、湯たんぽを入れて温めた。
やっと安全な場所を作ってあげられた。
黒猫は小さな箱の中で静かに眠った。
「もう、大丈夫だよ」
そう思っていた。
※
けれど、それから一週間も経たないうちに、その小さな命は尽きてしまった。
その前日の夜、いつもは箱の中で眠っていた黒猫が、初めて私の布団の中に潜り込んできた。
体をすり寄せてくるその小さなぬくもりが、なんだかいつもと違う気がした。
でも私は、もし潰してしまったら怖いし、まだ蚤が残っているかもしれないと思い、そっと箱に戻した。
「また明日ね」
そんなことを言いながら。
※
次の朝、黒猫は冷たくなっていた。
もう、動かない。
何度呼びかけても、耳をぴくりとも動かさなかった。
どうして?
寒かったの?
寂しかったの?
私と一緒に眠りたかったのに、拒んでしまったから?
そもそも、最初にもっとちゃんと親に頼んで、すぐに家で飼うことができていたら――。
病院にも連れて行ってあげられなかった。
何も知らなかった私のせいで、この子は死んでしまったのかもしれない。
本当に、本当にごめんね。
小さな体で、一生懸命生きようとしていたのに。
せっかく助けられたはずなのに、私は何もできなかった。
あの時、もう少し違う選択ができていたら、この子は今も生きていたかもしれないのに。
今でも、思い出すたびに胸が締めつけられる。
あの小さな黒猫のことを、私は一生忘れない。