猫のアン

公開日: ちょっと切ない話 | ペット |

猫(フリー写真)

私が小学生の時、野良猫が家に懐いて子猫を生んだ。メス一匹とオス三匹。

その内、オス二匹は病気や事故で死んだ。

生き残ったメスとオスには、アンとトラという名前を付けた。

私たちはメチャクチャ可愛がった。

アンは女の癖におてんばだった。

いつも一緒の布団で寝ていた。

ある日、親父がアンを勝手に避妊手術に出した。

帰って来たアンは…、手術の失敗で障害猫になっていた。

歩くこともできず、食べることもできずに、それでも一生懸命生きようとしていた。

私はアンに生きていて欲しかったから、一生懸命世話をした。

餌を細かく切って食べさせたり、親にはダメだと言われていたけど、家の中に入れて温めた。

その甲斐あってか、アンは次の春には歩けるようになり、餌も自分で食べられるようになった。

それに安心してしまって、私はアンの世話をあまりしなくなっていた。

月日は流れて、また冬がやって来た。アンは、弱って行った。

そして…アンは死んだ。

最後の日は不思議と元気があり、自分で餌をがつがつ食べたのだそうだ。

死因は、餌が喉に詰まったことによる窒息死。

私がアンの世話をさぼらなかったら…。

ごめん、アン。とても苦しかったでしょ? ごめんね。

あなたが苦しみから解放されたことだけが、私の唯一の救いです。

関連記事

母と娘

余命3ヶ月の母の“最後のおむすび”

僕がかつて看取った患者さんに、スキルス胃がんを患っていた一人の女性がいました。 余命3ヶ月と診断され、彼女はある病院の緩和ケア病棟に入院してきました。 ※ ある日の…

家族の影(フリー写真)

家族の時間

俺は昔から父と仲良くしている人が理解出来なかった。 ドラマやアニメなどで父が死んで悲しむとか、そういうシチュエーションも理解出来ない。 そもそも俺は父と血が繋がっていなかっ…

公園

約束の土曜日

3歳の頃から、毎日のように遊んでくれたお兄ちゃんがいた。一つ年上で、勉強もスポーツもできて、とにかく優しい。 一人っ子の僕にとって、彼はまるで本物の兄のような存在だった。 …

水族館

忘れられない君への手紙

あなたは本当に、俺を困らせたよね。 あの日、バスの中でいきなり大声で「付き合ってください!」って言った時から、もう、困ったもんだ。 みんなの視線が痛かったよ。 初デ…

女性の後ろ姿

ずっと一緒だから

もう、あれから二年が経った。 当時の俺は、医学生だった。そして、かけがえのない彼女がいた。 世の中に、これ以上の女性はいない。本気でそう思えるほど、大切な存在だった。 …

運動会(フリー写真)

素敵なお弁当

小学校高学年の時、優等生だった。 勉強もスポーツもできたし、児童会とか何かの代表はいつも役が回って来た。 確かに、良く言えば利発な子供だったと思う。 もう一人のできる…

ビール(フリー写真)

恐かった父

私の父は無口で頑固で本当に恐くて、親戚中が一目置いている人でした。 家に行ってもいつもお酒を飲んでいて、その横で母が忙しなく動いていた記憶があります。 ※ 私が結婚する事にな…

夏の部屋(フリー写真)

残された兄妹

3年前、金融屋をやっていたんだけど、その年の夏の話。 いつものように追い込みを掛けに行ったら、親はとっくに消えていたんだけど、子供が二人置いて行かれていた。 5歳と3歳。上…

花嫁

父のノート

大学生の時、友人Aちゃんと彼氏B君は同棲を始めました。二人は若く、両親からは「結婚はまだまだ先のこと。責任ある交際を」と言われていました。 大学3年のとき、Aちゃんの家族にのみ…

ワイン(フリー写真)

ワイン好きの父

いまいち仲が良くなかった父が、入院する前夜にワインを取り出し、 「まあいつまで入院するか分からないけど、一応、別れの杯だ」 なんて冗談めかして言ったんだ。 こんなのは…