コロの思い出

公開日: ちょっと切ない話 | ペット |

犬(フリー写真)

うちにはコロという名前の雑種の犬が居ました。

白色と茶色の長い毛がふわふわしている犬でした。

私が学生の頃は学校から帰って来る時間になると毎日、通学路が見える場所に座り、遠くから歩いて来る私を待っていてくれる利口な犬でした。

それから10年程経ち、家族は引っ越さなければならなくなりました。

それは庭の狭い小さな家でしたが、もちろんコロも一緒です。

しかし遊ぶ庭が無く、17才という年齢もあって、引っ越してから間も無くしてコロは足腰が弱り、歩けなくなってしまいました。

次第に目も白内障になり、耳も遠くなりました。

そして人間の認知症と同じでしょうか、朝晩の区別が付かず、夜中に大声で吠えるようになりました。

狭い住宅地では苦情が来た事も一度や二度ではありませんでした。

しかし外でしか生活した事のない犬を、狭い借家に上げる訳にも行かず、どうする事も出来ませんでした。

それから半年後の寒い冬の日、コロはひっそりと息を引き取りました。18才の誕生日目前でした。

色々な気持ちが入り交じって、涙が止まりませんでした。

翌日焼き場へ行きお焼香をし、最後のお別れをして火葬の厚いドアが閉められた時、目に浮かんだのは、帰りを待っていてくれたあの姿。

待ち遠しくソワソワし、一点を見つめていたあの姿。そして急ぎ足で帰った通学路。

コロ、心からありがとう。安らかに。

関連記事

山からの眺め(フリー写真)

命があるということ

普通に生きて来ただけなのに、いつの間にか取り返しのつかないガンになっていた。 先月の26日に、あと三ヶ月くらいしか生きられないと言われた。 今は無理を言って退院し、色々な人…

手を握る(フリー写真)

ごうちゃん

母が24歳、父が26歳、自分が6歳の時に両親は離婚した。 母が若くして妊娠し、生まれた自分は望まれて生を受けた訳ではなかった。 母は別の男を作り、父は別の女を作り、両親は裁…

田舎の風景(フリー写真)

せめて届かないだろうか

葬式、行けなくてゴメン。 マジでゴメン。 行かなかったことに言い訳できないけどさ、せめてものお詫びに、お前んちの裏の山に登って来たんだ。 工事用の岩の間に作った基地さ…

ネックレス(フリー写真)

大好きなあなた

大好きなあなたは、今も笑っているのでしょうか。 小さい頃に何故かおじいちゃんに引き取られた私(当時7歳)は、そこで三人の男の子に出会いました。 9歳の凄く元気なLと、12歳…

夕日とカップル(フリー写真)

優しい貴方へ

元気ですか。 今、何処に居ますか。 生きていますか。 悪い事はもうしていませんか。 貴方と離れてから7年が経ちました。 貴方は私に言いました。 「沢…

老夫婦(フリー写真)

夫婦の最期の時間

福岡市の臨海地区にある総合病院。 周囲の繁華街はクリスマス商戦の真っ只中でしたが、病院の玄関には大陸からの冷たい寒気が、潮風となって吹き込んでいたと思います。 そんな夕暮れ…

ナースステーション(フリー写真)

最強のセーブデータ

俺が小学生だった時の話。 ゲームボーイが流行っていた時期のことだ。 俺は車と軽く接触し、入院していた。 同じ病室には、ひろ兄という患者が居た。 ひろ兄は俺と積極…

絵馬(フリー写真)

絵馬に書かれた願い

この前、近くの神社まで散歩したんだ。 絵馬が沢山あって、 『あまり良い趣味じゃないな』 と思いながらも、他人の色々な願い事を見ていたんだ。 「大学に合格しますよ…

父と子(フリー写真)

俺には母親がいない。 俺を産んですぐ事故で死んでしまったらしい。 産まれた時から耳が聞こえなかった俺は、物心ついた時にはもう既に簡単な手話を使っていた。 耳が聞こえな…

カップル

余命と永遠の誓い

彼は肺がんで入院し、余命宣告されていました。 本人は退院後の仕事の予定を立て、これからの人生に気力を振り絞っていました。 私と彼は半同棲状態で、彼はバツイチで大分年上だっ…