ずっと一緒だから

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛

女性の後ろ姿

もう、あれから二年が経った。

当時の俺は、医学生だった。
そして、かけがえのない彼女がいた。

世の中に、これ以上の女性はいない。
本気でそう思えるほど、大切な存在だった。

けれど彼女は、まだ若かったにもかかわらず、突然この世を去ってしまった。
原因は静脈血栓塞栓症。
あまりにも突然で、何もかもが信じられなかった。

俺は心の底から崩れ落ち、精神的にも不安定な日々が続いた。
もう、何も手につかなかった。

彼女の葬式の日、彼女の母親が、俺にそっと声をかけてきた。

「あの子ね、亡くなる少し前にあなた宛てにこんなことを言ってたのよ」

そして、こう続けた。

『○○君は優しいね。
私が死んだら、きっとすごく落ち込むと思うけど……落ち込んじゃだめだよ。
ずっと一緒なんだから。
私みたいな人を、たくさん救ってね』

彼女はその言葉を残し、まるで眠るように静かに旅立っていったという。

俺は、その瞬間、何も言えず、ただ涙が溢れ出した。
これまでに流したことのないほどの涙だった。

彼女の最後の言葉が、自分に向けられたものだったという事実に、胸が締めつけられた。
死の間際まで、俺のことを想っていてくれたんだ。
その優しさが、深く、痛いほどに心に響いた。

その時、俺は彼女に誓った。
――君の命は、絶対に無駄にはしない。

そして今、俺は心臓外科医として働いている。

あんな悲しい別れを、もう二度と経験したくない。
だから、誰かの命を救える力を、この手に持ちたかった。

彼女に誓った想いを胸に、俺はこの道を歩き続けてきた。

ときどき、彼女は俺の夢に現れる。
あの頃と同じ、とびっきりの笑顔を浮かべて。

その笑顔は、俺の努力を見守り、そして祝福してくれる。
「がんばってるね」
そう言ってくれているような気がして、目が覚めた後もしばらく温かい気持ちが続く。

彼女の笑顔がある限り、俺は迷わずに進んでいける。
立派な医師になるために、今日も誰かの命を守るために、俺は手術台に立つ。

だって彼女が、今も俺のそばにいてくれるから。
ずっと、ずっと一緒なんだから。

関連記事

親子(フリー写真)

生んでくれてありがとう

母が死んで今日で一年が経つ。 高齢出産だったこともあり、俺の同年代の友達の親と比べると明らかに歳を取っていた。 「何でもっと若い頃に生んでくれなかったの!?」 と責め…

女性(フリー写真)

見守ってる

昨日、恋人が死んだ。 病気で苦しんだ末、死んだ。 通夜が終わり、病院に置いて来た荷物を改めて取りに行ったら、その荷物の中に俺宛の手紙が入っていた。 そこには、 …

ラーメン(フリー写真)

大好きなパパへ

私の両親は私が小さい頃に離婚し、私はずっとお父さんと生きて来た。 お母さんとお父さん。 どっちに行こうか迷っていた時、お父さんは 「ここに残りなよ」 と言ってく…

朝焼け(フリー写真)

天国の祖父へ

大正生まれの祖父は、妻である祖母が認知症になってもたった一人で介護をし、祖母が亡くなって暫くは一人で暮らしていた。 私が12歳の時に、祖父は我が家で同居することになった。 …

カップル

変わらずそばに

事故に遭い、足が不自由になってしまいました。車椅子がなければ外に出ることも、トイレに行くこともままなりません。多くの友人が去っていきましたが、彼だけは事故前から変わらずにそばにいてく…

コスモス

愛と犠牲

数年前、私が中学2年生のときに、私たち兄弟の両親は交通事故で亡くなりました。私たちは三兄弟で、私は真ん中の子、4歳上の兄と5歳下の妹がいます。 事故後、私は母方の親戚に、妹は父…

手を繋ぐ友人同士(フリー写真)

メロンカップの盃

小学6年生の時の事。 親友と一緒に先生の資料整理の手伝いをしていた時、親友が 「あっ」 と小さく叫んだのでそちらを見たら、名簿の私の名前の後ろに『養女』と書いてあった…

病室(フリー写真)

おばあちゃんの愛

私のばあちゃんは、いつも沢山湿布をくれた。 しかも肌色のちょっと高い物。 中学生だった私はそれを良く思っていなかった。 私は足に小さな障害があった。 けれど日…

子供の手(フリー写真)

嫁の手

うちの3才の娘は難聴。殆ど聞こえない。 その事実を知らされた時は嫁と泣いた。何度も泣いた。 難聴と知らされた日から、娘が今までとは違う生き物に見えた。 嫁は自分を責め…

手を繋いで夕日を眺めるカップル(フリー写真)

ずっと並んで歩こうよ

交通事故に遭ってから左半身に少し麻痺が残り、日常生活に困るほどではないけれど、歩くとおかしいのがばれる。 付き合い始めの頃、それを気にして一歩下がるように歩いていた私に気付き、手…