数奇な恋の話
俺が惚れた子の話をします。
俺はもう既に40歳前を迎えた独身男だ。
彼女も5年近く居ない。
そんな俺が去年の5月頃に友人に誘われ、ゴルフを始めた。
ゴルフなんてつまらないだろうと思っていたが、意外と面白かった。
少し興味を持った俺は、よく練習場へ行くようになった。
そこである女の子と知り合った。
凄く美人で品のある子だった。
俺が見る限り、まだ26歳くらいだと思った。
俺はその子を初めて見た時に、何て美人な子なんだろうと思った。
同時に、あの子は若くしてゴルフをしているなんて余程の金持ちか、何処かのお嬢さんなのだろうと思った。
その日から彼女が気になり、ゴルフ目当てではなく練習場に行くようになった。
彼女には偶に逢えたが、臆病な俺は何も話し掛けられなかった。
※
その生活が一ヶ月続いた頃だろうか、俺は勇気を振り絞って彼女に声を掛けた。
「こんばんは」と一言。
すると彼女はびっくりしたような顔をして「こんばんは」と言った。
とても可愛らしい笑顔だった。
それから練習場で逢う度に、俺は少しながら声を掛けた。
もう完璧に彼女に惹かれていたのだ。
※
風が強い雨の日、俺はナイター練習で練習場に足を運んだ。
すると、いつもは混んでいる練習場なのに彼女一人しか居なかった。
俺は勇気を出して、彼女に携帯番号とアドレスを聞いた。
すると、彼女は可愛い笑顔で俺に教えてくれた。
俺は堪らなく嬉しくって、毎日彼女にメールをした。
※
俺が仕事休みの日曜、彼女も暇だと言うので二人でドライブに出掛けた。
俺は恥ずかしながら、彼女の顔も見られなくて。
それでもただ、彼女と会話できるだけで嬉しかった。
彼女の事を色々聞いた。
今まで付き合った恋人の話や、趣味の話などを沢山話してくれた。
だが、家族の話は嫌がってしなかった。
※
それから何日か経った後、俺は彼女を幸せにしたいと本気で思い、彼女に告白をした。
彼女は泣きながら「ありがとう」と言い、付き合い始めた。
彼女と沢山の場所へ行き、沢山の思い出が出来た。
だが、彼女は自宅を俺に教えてはくれなかった。そして家族の話は決してしなかった。
それで何度も口論になった事もあった。
※
彼女と付き合い始め、一年二ヶ月が経った頃。
彼女から別れて欲しいと連絡が来た。
俺は何事だか解らず、話し合おうと言ったが、彼女は別れるの一点張りだった。
俺は身を引いた。
彼女を思い出し、毎晩泣き明かした。
滅多に飲まない酒も毎晩飲み明かした。
※
仕事が休みの日、友人の家に遊びに言った時の事だ。
友人の家の近くには、極道一家の自宅と事務所があるのは俺も前々から知っていた。
その家を通り過ぎ、友人家へ行こうとした所の交差点だった。
俺は何故か一時停止を無視して進んでしまったのだ。
運悪く接触事故になり、相手の車はそこの極道の車だった。
事故を起こしたと同時に、運転手が出て来た。
俺は殺されると思った。土下座して謝った。
すると、後部座席の方から「兄ちゃん、何処見てんのや」と女性の声がした。
顔を上げて見てみると、彼女だった。
髪を上げ、着物姿の彼女だった。
俺は訳が解らなくなり、その場で倒れ、そのまま病院に運ばれた。
※
目を覚ますと、いつもの彼女が居た。
俺には何も理解出来なかった。
病室に俺と彼女と二人きりになり、久々に話した。
彼女は言った。
「うち、来春に結婚すんねや。本当は結婚したくないんや」
彼女は本当は四代目の娘で、父親が決めた男と結婚させられるそうだ。
俺を巻き込んで、危険な目に遭わせたくなかったらしい。
彼女は最後に言った。
「あんたは幸せになってや。うちは死ぬまであんたを忘れんからな…。
もし、あんたが良かったら…来世は結婚してや」
彼女は病室を出て行った。
俺は泣いた。
彼女を愛していた。
彼女の事は一生忘れない。