気付かないふり
一昨年の今日、告白しました。生まれて初めての告白でした。
彼女は全盲でした。
それを知ったのは、彼女が弾くピアノに感動した後の事でした。
俺は凄くびっくりしました。そして同時に、めちゃくちゃ悲しくもなりました。
助けてあげたい、何でも良いから、俺は彼女の力になりたかったのです。
今にして思えば、それは俺のエゴだったんですけどね。
彼女は、自分が全盲である事をあまり意識されたくないようでした。
俺が出来る事は、彼女のピアノを聴いてあげる事と、日頃の悩みや、その日にあった出来事を聞いてあげる事でした。
そんな事をしている内に、俺は彼女の優しさや強さに惹かれて行きました。
※
そしてイブの夜、クリスマスパーティーの帰り。
彼女が車を待つ間に思い切って告白しました。
「大好きだ」ってね。
そしたら彼女が、もう少し近付いて欲しいと言うんです。
俺は言われるまま近付きました。そしたら…。
彼女は優しく俺の顔に両手で触れたと思ったら、そのまま唇を合わせたんです。
全盲の子ですよ? 俺は嬉しさと驚きと、とにかく色々な感情が湧き起こって来て、泣きました。
いつも彼女に「泣くのは格好悪い」と言っていたのに。
泣いているのは間違いなく声でバレているのに、彼女は気付かないふりをしてくれました。
※
その後、彼女は色々な経緯を経て手術をする事になり、暫く離れ離れになりました。
その間、俺はめちゃくちゃ不安で潰れそうでした。
ただひたすら、手術の成功を祈り続ける毎日。
失敗したらどうなるかは教えてもらえなかったし、怖くて調べなかった。
そんな勇気はさっぱり無かったんです。
※
そして、祈りが通じたのかな。手術は成功して、彼女の目に光が戻りました。
その後、初めて俺と会った時、彼女は俺の事をこれでもかというほど抱き締めてくれました。
手術が不安な時、俺に励まされた事を思い出していたと言ってくれました。俺はこの時も泣いてしまいました。
「もう気付かないふりできないからね」
俺はそのセリフに感動して、彼女の事を負けないくらい抱き締めて、それでその時に初めて俺の方から彼女にキスしました。
今でも彼女とは仲良くやっています。